97:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)[sage]
2011/03/22(火) 05:31:32.96 ID:A0O8EXjso
日本 桜が丘 繁華街
憂「あ、澪さん」
自分の家に帰る前に買い物を済まそうと繁華街に寄っていた憂は、見覚えのある顔に気付き、声をかけた。
が、澪は答えない。上を見続けている。周囲を見回すと、皆同じように同じ方向を、街頭巨大モニターを見つめていた。
黄金『よぉ、桜が丘の諸君」
憂「こいつは、律さんをさらったヤツ……」
澪「ああ、ついに現われたか」
黄金『突然だが、てめえらにはモラルがあるよな、善意、正義、秩序、良識、そんなもんがべっとりと、顔を覆い隠すマスクみてぇに張り付いてるはずだ』
黄金は自分の首を絞めるジェスチャーをしてみせる。
黄金『苦しいよなぁ、息が詰まりそうだ。そんな世の中が好きか? 居心地は良いか? 違うよなぁ。誰かから物は奪いたいよなぁ。欲しいものを盗みたいよなぁ。ムカつくやつは殺してぇよなぁ。だが、お前らはできねぇ。その理由は、モラルってやつがあるからだ。そう、何時も言う。そう思い込んでいる』
憂「……」
黄金『だがそれは嘘だ。本当は、力がねぇからだ。理想を実現する力が。望みどおりにしようとすれば秩序とやらが自分を排除する。それに抗えないのが怖いからだ。お前らが群れて正義だのなんだの主張し続けるのは、弱い自分を隠すためだ、そうだろ?』
憂は、少しだけこの男の言うことが理解できてしまう自分を呪った。
憂は変異種だ。変異種ゆえに人々に迫害されたことも、持ちろんある。自分だけならまだ良かった。唯が傷つけられたときの怒りは、今も忘れられない。
自分たちを人々が群れて傷つけたのは、彼らがあまりにも弱いからだ。そんな人間の弱さを、軽蔑している。
憂が人間を傷つけないのは、あくまで唯が人間を愛しているからだ。それ以外の何もない。
本質的には、憂は黄金の考えを否定できる立場ではなかった。
黄金『だが、そんな時代も終わる。はっきりとな。今日、世界は変わる。弱い人間の時代は終わり、より優れたものが優れたものとして生きていける、そんな正しい世界がやってくる。こいつによってだ』
カメラが切り替わる。
澪「律っ!!」
そこには律の姿があった。なにやら銅像に縛り付けられて眠っている。
黄金「この街の平和の象徴が、てめぇらの大好きな平和をぶっ壊す舞台になる。こいつは傑作だろ!?」
憂「あれは……」
琴吹グループ前相殺の――紬の父の銅像。彼の死後、人々が自主的にお金を集め、作り上げたものだ。
彼を慕う人々が琴吹ビルの屋上に建設した、平和を願う銅像。この街のシンボルである。
澪「あいつら律をどうするつもりだ……!!!」
澪は突然走り始める。
憂「ま、待って下さい澪さん! 行ってどうするんですか!」
澪「律を助けるんだ! あいつは私の――私たちの大切な仲間だ。だから絶対に失いたくない!」
憂「でも、澪さんに何ができるんですか。勇気と無謀を履き違えないでください。澪さんが死ぬことになります。澪さんが死んだらお姉ちゃんが悲しみます。そんなの絶対いやです。そうなったら、私、澪さんを許せないと思います」
澪「じゃあ、どうすればいいんだよ……」
憂「私も一緒に行きます」
澪「憂ちゃんが?」
憂「はい。私は――変異種ですから」
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