過去ログ - 男「また、あした」
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3:>>1[saga]
2011/03/28(月) 21:19:54.87 ID:gJVBoKdj0
 夏原は元々部活に入っていない。というのは彼自身が飽きっぽくて一つのものにずっといられないからである。そのくせ飲み込みはよく、気に入ったら段位とか黒帯とかをもらってからやめるようなひとだ。格闘技をくいちらかすのが好きらしい。今は空手で、この前はムエタイ。その前はボクシングなんかもやっていた。他にもあったが、あげだしたらキリがない。つまりはそれぐらい節操無しに格闘技を習ったのだ。筋肉隆々になるのも当然といえる。なにが楽しいのかまったく僕にはわからないけど。
「そういえば、冬森さんってどんな子だっけ?」
「は?」
 僕が唐突にそんなことを言うと、夏原は思い切りマヌケな顔をした。何か珍しいものでもみたかのように僕を見つめてくる。だから、そんな目で僕を見ないでほしいんだけど。失礼な奴だ。さらにそれだけじゃ満足せず、少し目をこすり、深呼吸なんかもしはじめて、先ほどの言葉は何かの間違いだとでも言うように聞きなおしてきた。
「なんだって?」
「だから、冬森さんってどんな子だっけ?」
「聞き間違いじゃないんだな。なんだ、お前。オンナに興味がでてきたのかよ?」
「語弊がある言い方だね……」
 ある意味じゃそういう表現もあっているんだけど、そうじゃなくて。単純に気になっただけなのに。僕と同じくして絵本がかきたいだなんて思う人はそうそういない。だから少し興味を沸いただけなのだけれど、それでも夏原にしてみれば驚天動地の事態らしい。仲のいい夏原でさえこれなんだから、僕のクラスにおける評価と思われ方はおのずと分かるというもの。我ながら情けない。
「まぁ、あれだ。いい傾向なのに間違いはない。うんうん」
 しかもなにやら頷かれているし。誤解をとくのにも苦労しそうなので放っておくことにする。とりあえず、聞ければいいしね。
「冬森雪花、か……ある意味じゃ……いや。あれはお前そのものだな」
「言っている意味がよくわからないんだけど」
「だから、秋川と冬森はかなり似ているんだって。クラスでも評判だぞ」
 いつのまにそんな噂が。僕は知らないぞ。
「ドッペルゲンガー説とか。双子説とか。生き別れの兄と妹とか。まぁ色々でている」
「色々あるもんだね……本人のあずかり知らぬところで」
 噂話というのは案外本人の耳には入らぬところで囁かれるものらしい。知りたくなかった新事実である。しかし、似ているっていうのはどういうことだろう。
「どこが似ているの?」
「ああ。まず気が弱いところだ。お前がウサギなら冬森は小鳥かなんかだな」
「なるほど。でも気が弱いだけじゃね」
「二人とも痩せ気味だしな。たんぱく質をとれ、たんぱく質を」
「筋肉をつけさせてなにさせるつもりさ。他には?」
「あと成績は大体上位に入っているな」
「へぇ……。でもそんなに似ているって言えるほどかなぁ?」
「まだあるぞ。お前は絵で冬森は文だ。どちらもクリエイトなものを趣味にしているな。確か冬森は文芸部だったはずだ。ああ。あと、お前は甘い食い物が好きだったよな、軟弱なことに」
「軟弱は余計だけど、まぁ好きだよ。いいよね、チョコとかクリームとか」
「冬森もそういうのが好きだと聞いた。あと、お前も冬森も異性が怖いらしい」
「……一個一個の印象は薄いけど共通点とするならかなりあるね」
「ああ。だからそういう噂の根拠になっているわけだ。なんだ、惚れたか。鏡でも見ろ」
「そういうのじゃないって。ただ、気になったんだ」
「気になった、ねぇ……」
「まぁそんなことはおいといて、さっさと帰ろう。早いとこ家に帰りたいよ」
「ああ。そうだな……おお、そうだ。俺だって今日は空手の道場にいかねばならないじゃないか。よし、さっさと帰ろう」
 ここで彼女についての話は切れる。帰り道でも話題に上がることはなかったが、僕の心でどうにも引っかかるものがあった。絵本をつくりたいという呟きは、僕は勿論彼女だって本心だったはずだ。よければ、というより、ストーリーなんて書けない僕一人では絵本なんかかけないわけで、文芸部だという彼女と一緒にやれればいいのができそうな気がする。もっとも、それには前提として彼女が絵を描けないということが必要だ。彼女が絵も描ける人だというなら、僕の出番はないだろう。それと、彼女にそれを提案できる勇気が僕に必要となるけど。……何だか無理っぽいな。あまり話したこともないし、所詮は夢物語に過ぎないのだろう。無念といえば無念だが、こればっかりはどうしようもない。僕は物語が作れないし、物語を作れる人を誘う勇気もない。絵本はかいてみたいけど、物語なくして絵本はかけない。既存のものを使うのもなんとなくいやだ。オリジナルのものをかいてみたい。あまりに贅沢な考えなのかもしれないが、こればっかりは譲れない。それができないなら、絵本をかくことは諦めるほかない。しょうがない、諦めよう……。


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