15:アスカ「私なりの愛ってやつよ」
2011/04/13(水) 23:40:07.72 ID:nYXsbXrS0
それ以後、僕はリュックを背負って旅をした。
部屋を移るごとに千円札を投げ込んでいくのさ。
○
初めのうちは制覇した部屋の数を数えていたけれど、途中から数えるのを諦めた。
ドアを開け、入り、部屋を横切り、窓を開け、乗り越え、部屋を横切り、
ドアを開け、入り、部屋を横切り、窓を開け……
この作業が延々と続く。
千円ずつ儲かるけれど、脱出の希望が見えないため、僕は希望と絶望に影響されて、
千円札の値打ちが乱高下した。
ついに我慢の限界が来ると、僕は畳に丸太のように横たわって行軍を拒否した。
ビタミン剤をガリガリと噛み砕き、水で流し込む。
「なんで僕がこんな目にあうんだ!」
と天井に向かって喚き続ける。
己を押し包む無音の世界が怖くなって、知っている限りの歌を大声で歌った。
ただし何も発見がなかったわけじゃない。
僕は、全く同じに見える自室にも、少しずつ違いがあるらしいと気付いたんだ。
旅に出てから10日も経った頃だろう。
かすかな変化だけれど、本棚の品ぞろえが変わってたんだ。
「吾輩は猫である」
を読もうと思ったら、その部屋には「吾輩は猫である」が存在しなかった。
この事実は何を示すのか。
まだ答えは出なかった。
○
他に考えることもなかったので、不毛に過ぎた半年間について考えた。
あんな阿呆らしい組織に身をやつしていたことが、今さらながら悔やまれた。
夏になってアスカとのタッグを解消した僕は、
<戦術作戦部>史上空前の役立たずという勇名を馳せた。
でも、ぐうたらしていたのに、追い出される事は無かったんだ。
ヱヴァパイロットにおける輝かしい実績をひっさげて<技術開発部>幹部となったアスカが
しきりと僕を訪ねてくるので、彼女との関係を考慮に入れて、大目に見られていたのじゃないだろうか。
僕はアスカに
「辞めよう」
と相談を持ちかけたけれど、彼女は笑って取り合わなかった。
「まあまあ、何となく居座ってたら、それなりに楽しい事もあるってば」
いい加減な奴。
組織の連中は僕を阿呆幹部だと思っているし、NERVのブレーンとして君臨する冬月副司令は
僕と口もきかない。
冬月副司令への反感も増すばかりだ。
不毛な日々を過ごす内に、僕は「逃亡」について思いを巡らせるようになった。
ただ逃げるだけではつまらない。
NERV史上に残る派手な反抗を示して逃亡してやろうと思った。
秋のこと。
アスカと鍋をつつきながら僕がそんな事を漏らすと、彼女は、
「あんまりお勧めできないわねぇ」
と言った。
「いくら無能の冬月副司令でも、<特殊監査部>の情報網は本物よ。敵に回すとなかなか怖いもんよ」
「怖いもんか」
アスカは鍋に入っていた豆腐をひょいとつまみ、
「ふぎゅう」
と声を出して押しつぶした。
「こんな風になっちゃうわよ?私は心が痛むわぁ」
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