過去ログ - アスカ「私なりの愛ってやつよ」
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17:アスカ「私なりの愛ってやつよ」
2011/04/13(水) 23:41:09.93 ID:nYXsbXrS0
 僕が窓を開けたのに、彼女は反応しなかった。不審に思いながら部屋に入り、彼女に声をかけてみた。

「あの、失礼します」

 いくら声をかけても彼女は反応しない。僕はおずおずと彼女の顔を覗きこんだ。

 彼女は美しい顔をしていた。肌は人間そっくりの色合いをしているし、ソッと触れてみると弾力がある。
髪は丁寧に手入れされ、整えられた衣服には乱れがない。透き通る目を見ていると、吸い込まれそうになる。
不思議な感覚だ。

 まるで、昔から知っている人のような、懐かしさを覚えた。しかし、彼女は微動だにしない。
どこか遠くに目をやった瞬間に凍らされた人のようだ。

「これはユイさんか?」
 思わず呟き、僕は茫然とした。

 ○

 秋の終わりの事だった。

 冬月副司令は個人的な感情から、<特殊監査部>と<保安部>を私物化し、ある人物の失脚作戦を立案した。
 陰謀の餌食となったのは我がNERVの長、碇司令だった。

 碇司令と冬月副司令との間に個人的ないさかいがあったという説が最も有力だった。
 面倒事は全て副司令に押し付け続けていた事に、堪忍袋の緒が切れたという説を唱える人もいた。

 いずれにしても冬月副司令は碇司令を破滅に追い込むことに決めたんだ。何をおいても、まずは情報収集だ。

 組織内に張り巡らされた情報網を伝って、碇司令にまつわるあらゆる情報が集められた。
 そのなかに彼女の写真があった。

 碇司令を失脚させる策を練る為に召集された会議の席上で、冬月副司令は弁護の余地のない最低の作戦を言い渡した。
 碇司令はそのユイさんを目に入れても痛くないほどに慈しんでいる。これを誘拐すれば、碇司令はこちらの要求を
飲むと踏んだんだ。

 計画遂行の夜。
 碇司令は国連に呼び出されていて、その日は帰ってこない。
 <保安部>の幹部数人と僕は闇にまぎれて地下10階へ集合した。

 当初の計画では<保安部>の一人が第二執務室の鍵を開け、幹部たちが侵入、
ラブドール「ユイさん」を盗み出すという事だった。
 しかし、計画は早くもとん挫しかけた。

 犯罪めいた所業に手を染めると分かって腰が砕けた、根性も忠誠心もない男が一人いたからだ。
 つまり僕だ。

 僕は、
「いやだいやだ」
と駄々をこね、壁にへばりついて抵抗した。

 他の幹部たちも、そもそも気が進まない事だったのだから、実行を躊躇した。
 そこへ、まさかわざわざ来るまいと思っていた冬月副司令が現れた。

「お前たち、何をぐずぐずしているのかね?」

 彼が一喝するが早いか、幹部たちは二手に分かれた。

 すぐさま計画の遂行に向かう一派と、闇雲に逃亡を図る一派だ。
 もちろん、逃亡を図ったのは僕だった。

 闇夜に乗じて逃げ出しながら、僕は
「こんな阿呆なことするもんか!」
と捨て台詞を残した。

 冬月副司令の眼が蛇のごとく輝いた。殺されるかと思った。

 僕の抵抗もむなしく、ユイさんは冬月副司令によって連れ去られてしまった。
 翌日、帰国した碇司令との間で取引が行われ、碇司令は冬月副司令の要求に膝を屈したという。

 数日を経ずして、碇司令は自分が創設して以来手放そうとしなかったNERVの実権を、
冬月副司令へ譲り渡したんだ。


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