26:アスカ「私なりの愛ってやつよ」
2011/04/13(水) 23:46:51.14 ID:nYXsbXrS0
良く見るとメガネケースのように見える。
彼女は別段、目は悪くないはずだ。
誰かの持ち物なのかな。
僕は単純な好奇心から、彼女に訊ねた。
「それ、なんだい?」
彼女は眉を緩めて、ほんの一瞬だけ微笑んだ。
「これは、ある人のメガネケース。中身をなくしてしまったの」
と言った。
彼女はある人からもらった大切な眼鏡を持っていたが、ロッカーにしまい忘れて
どこかへ行ってしまったという。
なぜ眼鏡を大切に思っているのかという理由も気になったが、彼女が微笑んだときの顔は、
よりいっそう印象に残った。
ようするに、率直に書いてしまえば、大方の予想通り、僕は惚れたんだ。
幾度かの試練を乗り越え、数ヵ月後の事。
僕がパイロット用ロッカールームで着替えをしていると、荷物に紛れて黒ぶち眼鏡が出てきた。
ひょっとしたら、これが彼女の探しものだったのかもしれない。
次に会う時に渡してあげようと思って僕はそれを持ち帰ったけれど、彼女とはすれ違う毎日が
続いてしまった。
それ以来、僕は綾波さんにいつか返さねばならないと考えて、メガネを大切にしていた。
しかし、返す機会もついに無く、眼鏡は机の中にしまい込んだままだった。
○
僕は繁華街で出会った、占い師の言葉を思い出した。
「メガネが好機の印ということさ。好機がやってきたら逃さない事だよ。その好機がやってきたら、
漫然と同じことをしていては駄目なんだ。思い切って、今までと全く違うやり方で、それを捕まえてごらん」
思い出した。約束って、そうか……。
「ありがとう母さん。今度こそ、好機を掴むよ」
母はドアを指差し言った。
「眼鏡を持って、ドアをくぐりなさい。サヨナラよ」
僕は母さんと握手をし、また必ず会おうと約束した。
今度は父さんも引きずって来ると言うと、母さんはクスクスと笑った。
「でもさ、母さん。どうしてユイさんの事を知らなかったの?母さんが作った世界なんでしょ?」
僕は尋ねた。
「私は、あなたの無数にある可能性を具現化しただけなのよ。実際に起こりうる未来を見せただけだから、
私の知らない事だってたくさんあるわ。流石に、ラブドールに手を出すとは思わなかったけどね」
「そうだったのか」
「でも、私に黙ってそっくりの人形を作るなんて、ちょっと趣味が悪いわよね。あの人にはオシオキが必要だわ」
そう言って、母は妖しい笑みを浮かべた。
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