829:すけこ☆マギカ[sage saga]
2011/11/06(日) 07:49:51.41 ID:p4laV2rSo
手足の感覚がハッキリと戻ってくる。
まだ自分を撫で続ける影を、杏子は振り払う。それだけで相手は、ぼろぼろと崩れだした。
真っ黒な聖母の顔が散る。その向こうに、着流しの。
「すけこ……」
ファヴェッタ。そう呼ばれていたか。しかし杏子には、そんな名に意味があるとは思えない。
そんな名じゃないだろう。
きょうこ。きょーこ。
同じ音の少女。
仲間だと思った。友達だと思った。理解できると思ったし、理解されたような気もした。
「アタシ、きっと、アンタを好きだったよ」
もうだめだった。手遅れなのだった。
人間扱いできない。仲間じゃない。友達でもなんでもなくなってしまった。
佐倉杏子は、目の前の魔女が敵としか見えない。
「すけこォ」
魔女は……彼女は、振り返った。
その動きで、口元をぬぐっていた左手、オーロラと呼ばれていた物体の、それのこぼしたエキスをぬぐっていた左手が、手首から外れた。
着流しは驚愕に目を見開く。腕を見る。無意味に何度も、落ちた腕を見る。見る。そして見る。
「杏子さん」
「好きだったから、……戦う。アタシの、全力だ」
落ちた腕が歪曲している。
川面は天から地を這い、また天へと伸びている。暗雲が、道路が、道ばたの草が、上に下に縦に横に伸びている。
伸びて、縮む。圧縮されていく。圧されながら、拡散する。海のように拡がって、芥子粒よりも小さくなる。
(話を聞いてもらえない親父がオカシイんじゃない。親父の話を聞かないヤツラがオカシイんだ。
世界が親父を拒むなら、それは世界のほうが悪いんだって、アタシは)
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