過去ログ - 梓「最後の花火に今年もなったなー」
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1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)
2011/06/12(日) 20:59:42.16 ID:kTga5cfAO
【プロローグ】
わたしはこの街ではじめて打上げ花火を見た。けれど、それはわたしにとっては眩しくて、うるさいだけだった。
「花火は小さなお星さまだよー」
あの人はそう言った。確か、二人で夜空を見上げていた時だったはずだ。
あれから、もう4年がたってしまった。
時は過ぎる、誰をそれをとめることはできない。
2:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 21:01:57.02 ID:kTga5cfAO
【第一部】
打上げ花火が上がる音が聞こえる。わたし――中野梓はカーテンを開き、外を眺める。地上から打ち上げられた緑色の閃光が空に向かっていき、そして破裂した。ドーンという音がして、大きな花が空に咲く。それが終わるか、終わらないかのうちに次の花火が上がり、見ている者を飽きさせない。
部屋に置いてあるテレビの天気予報は夏の終わりを告げていたが、この街はいっこうに落ち着く気配を見せず、それどころか異様な盛り上がりを見せていた。
3:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 21:03:46.24 ID:kTga5cfAO
街のほうもこのイベントに力をいれていて、この日は街中の学校や会社が休みになるほどだった。
まあ、わたしには関係ないんだけどね。
4:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 21:05:11.72 ID:kTga5cfAO
純はこの街で唯一、わたしが気軽に話せる人間だった。わたしは人恋しくなると、純の家に突然押し掛けることにしていた。多分、純にすれば迷惑このうえなかっただろうなとは思う。純はわたしと違い、たくさんの友達がいたし、わたしはその人たちとうまく関わることができなかった。だから、わたしが純の家にいるときはひどく面倒な思いをしたはずだ。
5:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 21:10:49.62 ID:kTga5cfAO
わたしはそんなことを考えながら、なにとなしに部屋を眺めてみる。アパートの1部屋、わたしの世界のすべてだ。
小さなテレビはどこかの誰かのニュースを淡々と流していて、その横に毎日、狂ったように弾いているギターがある。わたしは部屋の中央に座っていて、リモコンでテレビを切り、ラジカセのスイッチを押す。すぐに『I want you』とボブディランのしわがれた声が流れ出す。少し、やるせない。
6:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 21:12:53.81 ID:kTga5cfAO
ふと、部屋の片隅に置いてある電話機が目に入り、それと同時に、昨日純から電話がかかってきたことを思い出す。普段電話なんてこないから、よく覚えていた。
『梓!元気にしてる?』その時の純の声はなぜか嬉しそうだった。
7:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 21:15:22.24 ID:kTga5cfAO
『そんなことよりさあ、梓死なないでよ!』
「はっ?どういう……」
『だって、梓さーなんか仕事も辞めてもううつ病患者みたいになってるじゃん』
「…なってない」
8:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 21:20:25.67 ID:kTga5cfAO
「まあいいや、バイバイ。はじめてセールス以外の人からかかってきて、電話も喜んでると思う」
『……また会えるよね』
「ぷっ、何それ」わたしはつい吹き出してしまう。
「まるでわたしが引っ越すみたいじゃん」『……うん』
9:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 21:26:18.93 ID:kTga5cfAO
わたしは立ち上がって、外へ出る準備をする。聞こえてくる音だけで、色とりどりの花火が上がるさまを想像できた。
人混みは好きじゃない。だけど、あの人がいるかもしれないという予感がしていた。ただ、その予感はいつもこの時期になると感じるものでもあった。つまり、わたしはあの日からずっと、あの人に会いたいと強く願っていたんだ。
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/06/12(日) 21:27:24.66 ID:/BbihJpIO
まなつのーピークがーさったぁー
11:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 21:46:31.63 ID:kTga5cfAO
【第二部】
あの人にわたしが会ったのは、四年前、蒸し暑い夏の終わりだった。わたしはその頃は別の町に住んでいて、なんとなく行った散歩帰りにいつもの道をいつものように1人で帰っていた。すると道端でギターを弾いている女の人がいた。それがあの人だったのだ。
わたしはなんとなく興味がわいて、そこへ寄ってみた。そして、見惚れた。ギターを弾く姿やその音色、歌声、表情、どれをとっても美しくて、気づくとわたしは三時間もそこに座って歌を聞いていた。
12:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 21:47:47.08 ID:kTga5cfAO
「お客さん、今日はもうおわりだよ〜」
お客さん?そこでわたしは気づく、これは商売だったのだ。ちゃんとお金を入れる箱も置いてある。わたしは気が動転していて、こんなまぬけなことを言った。
13:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 21:49:28.68 ID:kTga5cfAO
あの人はわたしがお金をほとんど持ってないことを聞いても、怒ったり、つかみかかったりはしてこなかった。
「そっか、こんなかわいい子なのに、なかなかやるねぇ」
「えっ、いや、ホントにすいません」
「えへへ〜冗談だってー」
14:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 21:55:44.31 ID:kTga5cfAO
「ちょっと待ってください」気づくとわたしはその人を追いかけて、肩に手をかけていた。
「どーしたの?」
「まさか、その公園で寝るんですか?」
「そーだよ」あの人は何か問題があるの、という顔をしている。
15:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 21:59:39.73 ID:kTga5cfAO
家についた頃には、もうかなり遅い時刻なっていた。というのも、あの人がアイスを食べたいと言い出したからだ。
汚くて恐縮ですが、とわたしはあの人を家に上げる。
「今思ったんだけど、親に怒られない?」「親はいないです。事故で…」
16:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 22:14:55.00 ID:kTga5cfAO
「そうだっ!わたしたちまだお互いの名前も知らなかったね」
そして、指先を自分のほうに向けた。
「わたしは唯っていうんだ」
「唯ですか…いい名前ですね」
17:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 22:21:07.29 ID:kTga5cfAO
「き、今日は調子が…」
そう言って、わざとらしく腹を押さえる。「ホントですか?唯先輩?」
わたしは学校のくせで、先輩と呼んでしまった。
「またひど……って先輩?えへへ〜先輩って呼ばれてるー」
18:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 22:23:22.44 ID:kTga5cfAO
「それよりさ、君の名前はー?」
「ああ、わたしですか。わたしは梓っていうんですけど」
「あず…さ、どっかで聞いたような」
唯先輩は少しの間考えるようなそぶりをし、言った。
19:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 22:27:19.20 ID:kTga5cfAO
「うん!昔ね飼ってたんだけど、逃げちゃったんだよね〜」
そんな縁起でもない名前、とわたしは言いたかったたが口には出さない。
「また会えたねー」
唯先輩が抱きついてくる。
20:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 22:30:31.28 ID:kTga5cfAO
唯先輩がわたしのところにいたのは、たった二週間程度だった。その二週間はあっと言う間に過ぎてしまったが、その間には、よくこれだけの短い時間に入りきるよなあと驚くほどのたくさんの思い出がつまっていた。
21:名無しNIPPER[sage]
2011/06/12(日) 22:34:40.46 ID:kTga5cfAO
唯先輩はわたしがギターを弾けることを知ると、すぐにわたしを引っ張りだし、一緒に弾かせた。ギターを人前で弾いたことないわたしは最初こそひどく緊張したものの、すぐに慣れてしまった。多分、横で楽しそうにギターを弾く唯先輩を見て、緊張するのが、バカらしくなったのだろう。
唯先輩とギターを弾くのは、他の何より楽しかった。わたしのギターの音と唯先輩のギターの音が重なり、そこに唯先輩の声が加わって、ひとつの歌になる。その感覚がわたしは好きだった。まるで、肩に翼が生えてどこまでも飛んでいける、そんな気がした。
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