過去ログ - 美琴「極光の海に消えたあいつを追って」2
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22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[saga]
2011/07/02(土) 00:39:07.43 ID:4jjVYGHho

切っ先は揺れる。

高速で振動する砂鉄の剣は、かすっただけで物を容易に切断する鋭さを持つ。
何も言わぬ一方通行の首筋まで、あと5cm。
たったそれだけが、果てしなく遠い。

これを振り下ろせば、一方通行は造作もなく死ぬだろう。
あるいは、反射され自分が真っ二つになるのかもしれない。
どちらにしろ、一つは命が失われる。

     『テメェも私も同じ穴の狢、つまるところただのバケモノなんだよ』

     『自分の持つ力をどう使うか、そこに人間とバケモノの境界線があるの』

麦野との会話が、脳内でリフレインする。
一方通行を殺せば、自分もヒトゴロシ。
つまりは、彼と同じ醜いバケモノに成り果てるということ。
一方通行を憎悪するものとして、彼と同じ存在にだけはなりたくないと思う。

だが、彼を殺してしまえば、妹たちに対する脅威は永久に消滅する。
自分の破滅と引き換えに、訪れるのは妹たちが怯えることなく静かに暮らして行ける世界。

切っ先は揺れ続ける。

美琴は職業軍人でも裏稼業の人間でもなく、本質としてはただの女子中学生に過ぎない。
人を殺す勇気なんて、持っていない。
一方で後顧の憂いとなり得る、目の前の男を見逃すことだってできない。

麦野に語ってみせた己の理想が、がらがらと音を立てて崩れて行く。
結局は自分だって、力の使い方を誤っているのだろう。
むしろ自覚も覚悟もなく振るおうとしているだけ、自分のほうがタチが悪い。

切っ先は大きく揺れる。

結局、美琴の心は弱くて。

殺したいほど憎んだ、10031人の妹を虐殺した男に対して。

断罪の刃を振り下ろすことが。



できなかった。

 


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