886:LX[saga sage]
2012/09/30(日) 20:41:45.17 ID:21DH1Xvd0
美鈴の話というのは、御坂麻美(元検体番号10032号)とその子を引き取る、というものだった。
聞く耳を持たぬ上条詩菜が頑張る上条家はともかくとして、最初の衝撃が落ち着いてくると御坂家の立場は微妙だった。
当麻の子を孕んだのが、もし全く関係のない女の子であったなら話は単純だっただろうし、御坂家としても明確な対応を出したことだろう。
しかし、その相手は、他ならぬ自分たちの娘・美琴のクローンであった。
美琴自身に責任がある訳ではない。しかし、妹達<シスターズ>に対しても同じことが言えるのか?
普通に言えば、ない。
だが、人間として今現在存在する御坂麻美に対して、しかも産まれてくるであろう赤ん坊をお腹に抱えた、身体こそ大人だが、人としての経験はまだ6年ちょっとしかない彼女を「関係ないから」と言って放り出せるほど、彼らは冷酷になれなかった。
当然ながら美琴は大反対であった。
しかし、
「じゃぁ、美琴ちゃんは、あの子が彼の周りを、子供を抱いてうろうろしても良いのかな?」
と美鈴に問われ、美琴は返事に窮した。
「それとね、もし、彼の実家にあの子が行くようなことになったら、あなた完全に白旗だけど?」
「止めてよそんなの、絶対にだめ! それはだめ!」
「でしょ? あの子は、あなたのクローンだと言っても、私が腹を痛めて産んだ子じゃないのよ?
でもね、赤ちゃんは彼の子なんだから、上条さんからすれば孫には違いないわけだし……」
思い切りふくれ面をする美琴であるが、その通りであり、彼女としては非常に面白くない。
「どうすればいいのよ?」
「だから、言ってるでしょ? ウチで、私が見張っててあげるから。いいわね?
それより、美琴ちゃんは彼をしっかり捕まえときなさい? 気を抜くと、他の女に持ってかれるわよ? しっかりしなさいな」
「わ、わかってるわよ、そんなこと! 今さら母さんに言われなくたって、しっかりしてるから!」
「そう? ならいいけど。じゃ、そういうことで、美琴ちゃん、しっかりね?」
かくして、美琴は陥落した。
実は、これも美鈴の策略だった。
美琴は知らなかったが、彼の母親である上条詩菜は、御坂麻美を今なお「私の息子をたぶらかした性悪女」と思いこんでおり、どう逆立ちしても、家で面倒を見るなどとは口が裂けても言うはずがなかった。
実のところ、美鈴すら詩菜から当初は避けられていたくらいである。
ある時、いつものように美鈴がスポーツクラブに行くと、ちょうどトレーニングウェアに着替え終わった詩菜と出くわした。
「こんにちは!」
「……ど、どうもね」
ぎこちなく詩菜は挨拶するといきなり彼女は更衣室にUターンした。
「あら、これからではなかったんですか?」
あれ? と言う感じで彼女が不思議そうに訊ねると、詩菜はうるさそうに
「ええ、今日、用事があること忘れてて、うっかりしてました。ごめんなさいね」
そう言い、彼女はあたふたと自分のロッカーの方へ消えていった。
その後、詩菜は彼女を見かけると帰ってしまうことが2回ほどあり、美鈴も彼女が自分を避けていることをはっきりと自覚するに至った。
それが、一昨日、どうしたことか彼女が美鈴の家を訪ねてきたのだった。
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