887:LX[saga sage]
2012/09/30(日) 20:48:19.91 ID:21DH1Xvd0
「ご無沙汰して失礼しました」
「いえいえ、とんでもない」
紅茶を入れてきた美鈴に、つまらないものですけれど、と詩菜はクッキーの小袋を渡す。
あら、すみません、じゃこれ、ご一緒しません? と美鈴は袋を破くと小皿にそれを空けた。
「わたし、最近サボっちゃってるんだけれど、御坂さんはちゃんと通われてるの? 羨ましいわ、いつもお綺麗で」
「止めて下さいな、ご冗談ばっかり……おかげさまでちゃんと行ってますわ。また一緒に行きません? 気分転換には良いですわよ?」
狐と狸の化かし合いのようなジャブの応酬から二人の会話は始まった。
他愛もない、腹のさぐり合いの話が一通り済んだ後、詩菜が話を切り出した。
あたかも、独り言をつぶやいたと見せかけて、である。
「あ〜ぁ、わたしもおばあちゃんになっちゃうのねぇ……」
来たか、と美鈴はすぐさまその釣り針にあえて引っ掛かってみせる。
「あら、言われなければわかりませんわよ? とてもそんなには見えませんもの」
「まぁ、相変わらずお上手ですわ……御坂さん、あの、その後何か聞いてらっしゃる?」
「あら? 息子さん、何も御連絡されてないんですか? お母様がこんなに心配されてるっていうのに」
突っ込んでくることを予想して、美鈴は釣り球を放ってみた。
しかし、詩菜の返事は少し違ったものだった。
「私のせいなんですわ、きっと。そう……あの子を思い切り叱りつけたから……それでまた怒られると思って、ずっとダンマリ決め込んでるんですわ」
「まぁ……」
「それで、不躾でごめんなさいね? あの……お嬢さんはどうなんですか? その、アチラの方もですけれど」
さぁ本命が来たわね、と美鈴は気を引き締める。
「問題の子の方ですけれど、ウチの方で面倒見ようかと思ってるんです。
私の実の娘ではない訳ですけど、放っておく訳にもいかないでしょうし……。
こっちに置いておけば、上条さんにも、息子さんにも御迷惑をおかけしなくて済みますし、うちの娘もあっちで顔を合わせることもないし、精神的にも楽になるでしょうから……」
私の考えですけれどね、と断りを入れておいて、美鈴はそう直球を投げた。
さて、詩菜はどう出るか? 美鈴はそっと腹に力を込めた。
「まぁ……でも、御坂さん、本当にそれで宜しいの? その……クローン、の子って、あなたのお嬢さんを苦しめた女でしょ?
そんな女を家に入れて本当に大丈夫なの?」
本気なの?と言う顔で詩菜は訊いてくる。
確かに、娘の婚約者を寝取った女を自分の家に迎え入れるなど、常識ではちょっと考えにくい話ではある。
「まぁ、そうですわね。でも、その子って、ウチの娘とそっくりなんですよ?
そんな子が、赤ん坊を連れておかしなことされたら、それこそ新聞沙汰にでもなったらウチだって困りますもの。
周りが目に入らなくなっている人間ほど怖いものはありませんでしょ?
だったら、うちで囲い込んでしまえばいいんじゃないかなーって。そう思いません?」
さて、上条さん、どう出ます?と美鈴は言葉を切る。
「そう……かもしれないですわね。でも、産まれてくる子は……うちの子の血をひいてるんですよね……」
端正な顔に苦渋の色を見せる詩菜。
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