932:LX[saga sage]
2012/12/02(日) 19:19:37.76 ID:fLg29DFl0
  
 「あんた、一緒に行かなくてよかったの?」 
  
 口火を切ったのは美琴だった。 
  
 二人の足は学園都市に戻るべく、エントランスへ向かっていた。 
  
 「いいんだよ。これで」 
  
 「ふーん? 無理しなくてもいいのに」 
  
 いたずらっぽく突っかかる美琴に当麻は真面目な顔で答える。 
  
 両親と別れる時の彼女の顔に、寂しさの色を見て取ったからだ。 
  
 「無理ってなんだよ。もうオレの出る幕じゃないだろ? 
  
 それに、何度も言ってるけど俺はお前が大事なの。お前を選んだわけだし、今回はお前に助けてもらったわけだし、いろいろとお前のことも心配だから、なんだよ」 
  
 「……あれれー、随分しおらしいこと言ってくれるじゃない? 明日は大雨かしらね」 
  
 一瞬の間をおいて、美琴は皮肉っぽく答えてきた。 
  
 昔ならデレるはずだったのにな、と彼は少し残念に思う。敵がそうなら、と当麻もボケで返すことにした。 
  
 「いや、晴れるって出てるけど」 
  
 「馬鹿、つまんない答え返すんじゃないの! ホントにもう……。でもね、昔のアンタだったら一人で突っ走って、何しでかしてたか怪しいもんよ? 
  
 あんたも少しはお友だちを見習いなさいよね、ほんと」 
  
 少し元気が出てきたようだな、と彼は少し微笑む。 
  
  
  
 「しかし、平和だよな……この前のあの馬鹿騒ぎ、いったい何だったんだろうな?」 
  
 入管を出て、思わず当麻がつぶやく。 
  
 自分たち、たった1組のカップルをめぐっての大騒動。それがまるでウソのようだった。 
  
 美琴は答えない。 
  
 (ゴメンね、全部、あの人たち<学園都市統括理事会広報委員会>のしわざだったのよ。私を取り込む為の) 
  
 彼女は心の中で皆に謝っていた。 
  
 「ね、どこかで一緒に食べて行こう?」 
  
 嫌な思いを振り払おう、と美琴は笑顔で当麻にそう呼びかけた。 
  
 「あー、それいいな……あれ、それより美琴、お前、時間、いいのか?」 
  
 一瞬嬉しそうな顔をした当麻だったが、さっきの美琴の言葉を思い出し、彼女に訊いてみた。 
  
 「いいんだってば……もう、いいの」  
  
 方便に決まってるでしょ鈍感、と言いそうになった美琴は直ぐに思い直し、そう言うとしっかりと当麻の腕に抱きついた。 
  
 「おぅ、ど、どうしたんだよ?」 ちょっと驚く当麻に彼女は小さな声で訊く。 
  
 「いいでしょ、たまには。それよりアンタ……その、あのね、ホントに私のこと、心配?」 
  
 「まぁな」  (お、もしかして?) 
  
 美琴の顔を覗き込むと、少し赤い。 
  
 照れてるな、少しは許してもらえたんだろうか、と当麻は思う。 
  
 「ああ。言ってくれよなー。ホント大丈夫なのか、三足のわらじなんてさ」 (今度は、どうかな?) 
  
 果たせるかな美琴の足が止まり、彼女は腕を解いた。 
  
 「……あんたの心配って、そっちかいっ?」 
  
 (あはは、怒ったか。なんか少しホッとする。いつもの美琴が帰ってきている。そんなこと言ったらまた口を利いてくれないな) 
  
 当麻は右手を伸ばし、美琴を抱きとめ、ぐいと引き寄せる。 
  
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