11: ◆3/LiqBy2CQ[sage]
2011/09/15(木) 20:07:34.81 ID:+wTNpPwyo
でも同時に、きっとあの時の唯ちゃんはもっと傷ついたんじゃないか、とも思う。
ある意味では自らの意思で恋心に決別できた私とは違い、何も出来ぬまま一方的に現実を突きつけられた唯ちゃんの傷心と後悔は、きっと計り知れない。
知らなかったこととはいえ、自分に好意を寄せてくれていた女の子の気持ちを踏み躙ったのだ、私は。そんな私が、その踏み躙った相手の好意に、過剰に甘えるわけにはいかない。
唯「ムギちゃん」
紬「…なぁに?」
唯「いつでも、だよ? そりゃ私にだって予定がある時もあるかもしれないけど、遠慮はされたくないよ?」
紬「……それは、だめ。私は……きっと甘えちゃうから」
どちらかといえば私は甘える側ではない。何よりも眩しく輝く思い出の高校時代等は特に。
だから、きっと甘え慣れていない。いつでも、いつまでも甘えてしまう。こんなくだらない毎日ばかり過ごしている荒んだ心だと特に。
そして唯ちゃんに迷惑をかけて、それをわかっていても自分では止められなくて、そして、また――
唯「……大丈夫だよ、ムギちゃん。『それ』がある限り、大丈夫」
私の心の中を見透かしたような唯ちゃんが指差すものは、私の左手薬指、すなわち結婚指輪。
……そうだ。私は既婚者なんだ。他の誰かを好きになることなんてないし、あってはいけない。そういう立場なんだ、既に。
きっと唯ちゃんも、自分に言い聞かせるように言ったのだろう。私の心の中を見透かせるという事は、思い当たる節が唯ちゃん自身にもある可能性が高いから。
それくらいには、私達は同じだった。同じものを背負い、同じものを過去に捨て置いてきた。
そんな唯ちゃんなら……私を変えてくれるかもしれない。私の毎日に彩りを与えてくれるかもしれない。
そうだ、そもそもそんな思いから、私は今日、唯ちゃんに会いたがったんじゃなかったか。
紬「……うん、わかった。ダメかなぁって思ったときは、遠慮なく連絡しちゃうね」
唯「うん。いつでも待ってるよ。欲を言うなら、少し余裕を持って連絡して欲しいけど」
紬「ふふ、努力するね」
――そのままダラダラと歩き回り、時に喫茶店で休憩を挟んだりしながら、今度は私の今の状況を話した。
聞かれた所は事細かに、言わなくてもいいような所はなるべく濁して。
唯ちゃんは同情も批判もせず、ただ何と言えばいいか決めかねているようだった。別に何か言って欲しかったわけではないし、悩んでいるという事はそれだけ真剣だということだから何一つ嫌な気分にはならない。
そしてじっくりたっぷり悩んだ後、唯ちゃんは「頑張ろうね」とだけ口にした。頑張れ、ではないあたりが唯ちゃんらしくて、思わず顔が綻んだ。
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