過去ログ - 紬「メンヘラ」
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12: ◆3/LiqBy2CQ[sage]
2011/09/15(木) 20:08:13.25 ID:+wTNpPwyo


――空が茜色に染まってきた頃、私は一つのアクセサリーショップに唯ちゃんを先導した。
勿論、唯ちゃんとお揃いの何かを買うためだ。でも特別高い店でもないから唯ちゃんにも喜んでもらえるかな、と思ったのもある。
実際のところ、唯ちゃんは子供のように目を輝かせていろいろ見て回っていた。予想以上の成果と言えるけど、今日の目的はあくまでプレゼント。何かないかな、と見て回っていると、あるものが目に留まった。

紬「唯ちゃん、ちょっと来てー?」

唯「ん? どーしたの?」

紬「これどうかな? 似合うと思う?」

手に取って見せてみたそれは、幅広のレザーバンド。だがそれに唯ちゃんは怪訝な顔をする。

唯「……もうちょっと女の子らしいもの選んだら?」

今のは結構グサっときた。でも確かに女の子らしいかと言われれば微妙なところ。
長めの革を何度か腕にぐるぐる巻きつけて留める、オシャレというよりはカッコつける系のアクセサリー。女の子に似合わないとは言い切れないけど、人を選ぶかもしれない。

紬「じゃ、じゃあこっちにする?」

今度はトリコロールカラーのリストバンドを見せる。こっちならシンプルで人を選ばないと思う。
でも、それにも唯ちゃんは怪訝な顔をした。また女の子らしくなかったかな、と思ったけど、次に発された言葉は予想と違っていて。

唯「……なんで手首に巻くものばかりなの?」

紬「え……」

言われてみればそうだ。気づけば手首に巻くものばかり、しかも幅広のものばかりを見ている。
それは何故か。ちょっと考えればすぐに思い至る。
唯ちゃんとお揃いという事は、私も身につける物だから。どうせなら、と手首を覆い隠せるようなものを無意識に探してしまうんだ。
……この傷のことだけは、唯ちゃんにでも言えない。見せられない。隠し通さなければいけない。

紬「……似合わない、かな?」

唯「そういう意味じゃないけど……」

紬「よかった! じゃあこれ一組買ってくるね!」

唯「あ、ちょっとムギちゃん――」

無理を通せば道理が引っ込む。少し違うような気もするが、下手にごまかすよりは得策だったりもする。
大人の汚い交渉術も、こういう時には役に立つ。

紬「はい、唯ちゃん」

唯「ほえ?」

紬「プレゼント。二人で片方ずつ付けて、お揃い♪」

唯「え? でも……」

紬「今日のデートのお礼。ね?」

唯「…そういうことなら、ありがと。……で、でも次からはこういうのいいからね!?」

紬「じゃあ、次からはそれ付けてきてね?」

唯「う、うん……」

この場で付けて、とは言わなかった。
次に持ち越すことで、自然と次に会う機会があることをほのめかせるし……それに何よりも、唯ちゃんに強制したら私も付けないといけなくなる。手首を晒すわけにはいかない。
唯ちゃんはちょっと納得いかなそうな感じだったけど、ポケットに仕舞った後にはいつもの輝かしい笑顔でお礼を言ってくれた。


――夕陽が沈む前に唯ちゃんと別れ、家に帰って夕食の準備。
料理は出来ないわけではないが、相手の事を考えた料理となるとこれはこれで中々難しい。いつもたっぷり悩み、たっぷり時間をかけて作る羽目になる。
夫婦仲は冷え切っている、とは言ったが、料理を放棄すれば命に関わる。食は命の源。健康の事も考え、ちゃんとした料理を作ってあげている。
そのあたりが彼が私を諦めきれない所以なのかもしれないが、死なれでもしたら目覚めが悪いのだから仕方ない。私のせいで誰かが傷つくのなんて見たくない。
絶対に見たくない。私のせいで傷ついていいのは私だけだ。

そう、言わばこの毎日は自業自得。今更唯ちゃんに救いを、癒しを求めるのさえ的外れなのかもしれない。


……でも、それでも確かに、唯ちゃんと、皆と仲良く話せた昨日は、手首を切らずに済んだのだ。




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