過去ログ - 紬「メンヘラ」
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13: ◆3/LiqBy2CQ[sage]
2011/09/15(木) 20:08:55.76 ID:+wTNpPwyo


――彼が帰宅し、食事の時間を経て、互いにお風呂を済ませて寝室へ向かうと、そこからは夫婦の時間。
冷め切った夫婦を演じているとはいえ、夫婦としてのこの行為だけは私は拒めない。実に様々な要因が重なって拒めないのだ。

まず私は同性『も』愛せるというだけで異性を嫌悪しているわけではない。異性との性交渉は、悲しいかな、雌としての本能に訴えかけてくるものがある。
早い話が、相手に愛情を抱いていないとはいえ、嫌いではない以上は性的興奮を喚起されてしまうのだ。
一度自慰の味を知ってしまった人が二度と自慰をしないのは不可能だ。性欲というものは人間の本能なのだから。
そして同じように人間は快楽には貪欲である。何の不利益も被らずに快楽だけを味わえるというのなら、人間は絶対に拒めない。
私も例に違わず、性的な快楽の前では理性は薄れてしまう人間だ、ということ。せめて相手を嫌いであったなら拒めたのだろうが。

次に、私はどこか彼の性欲の捌け口にされているようなその扱いさえもを利用しようとしている節がある。
彼は毎日私を求めてくる。前述したように女性に免疫がないほどの彼が女性の味を知ってしまったのだ、その若さも手伝って脳がそちらに切り替わると止まらないのだろう。
行為の最中は私も興奮しないと言えば嘘になる。だが終わってしまえば、結局は男の自分勝手な欲望に振り回されただけ、と思えるのだ。彼の獣のような目を、動きを知っているから。
彼の欲を実感することで、より私の心は冷え切っていく。彼との夫婦仲をより凍らせることが出来る。そして誰かにそんな私の扱いを愚痴としてぶつけることさえも出来る。それは流石にまだやっていないが。

最後に、これは一種の償いでもある、とも考えられる。
私の身勝手な理由で仮面夫婦を演じていることに対する償いとして、せめて性行為だけはさせてやろう、というもの。
私に残った、彼に対する最後の良心。思いやり。そうとも取れる。

だが、どの理由を取ってみても、そこに愛はない。
お互い初めてだったあの時は、確かに彼は私を愛してくれた。私はただ黙って受け入れた。私に愛はなかった。
今では彼にも愛があるのかはわからない。何かに突き動かされるように私を求めてくるその姿からは、愛を見出す方が難しい。でも嫌いではない、互いに。だから気持ちいい。

結局、人間の脳の快楽を感じる部分は、案外いい加減なものなのだろう。
実に気持ち悪い。自己嫌悪に陥ってしまうほど。
心から愛している人とでないと感じられない仕組みなら、どれほど良かったことか。

そんな吐き気のするような人間の本能への最後の抵抗として、私は彼に避妊具の着用を強要している。
もちろん私自身もそれなりに対策を練っている。妊娠したなら堕胎させる覚悟もある。
子供を作らない、それが私のささやかな反抗。子供を作るのは……全てを諦めた時でいい。全てを諦め、囚われの鳥としてゆっくりと朽ちてゆく覚悟を決めた、その時で。


――今日も私は、一日の最後に手首を切る。

   流れ出る血と共に、人間としての汚さも流れ出てしまえばいいのに。




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