過去ログ - 紬「メンヘラ」
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19: ◆3/LiqBy2CQ[sage]
2011/09/15(木) 20:15:32.32 ID:+wTNpPwyo


――すっかり冷えてしまったお味噌汁に火をかけ、少しずつ温める。
完全に温まるよりも先に、匂いが充満し始める。それに反応したようで唯ちゃんが目を覚ました。

唯「……ごめん、寝ちゃってた……」

紬「いいの。時間もそんなに経ってないし……それに、私のせいだし」

取り繕いながら居間の方へ。あの後こっそり唯ちゃんにかけておいたタオルケットを手渡されるけど、まだお味噌汁が温まるまで少し時間はある。二人してソファに腰を下ろし、話を続ける。

唯「……それでも、ごめん。それにムギちゃんだって徹夜じゃん。私だけ寝ちゃったのは……」

紬「私は…ほら、しなくちゃいけないことがあったから。仕方ないっていうか……」

朝食を作り、彼に休む旨を伝える。どれを欠かしても唯ちゃんと過ごす一日に支障をきたすから、苦にはならない。
……そういえば、唯ちゃんの視線をちょくちょく感じていたはずなんだけれど……

紬「……そういえば、いつごろから寝てたの?」

唯「ん……いつだっけ。よくわかんないけど……とりあえず旦那さんの顔は覗き見ちゃいました」

紬「やっぱり。何回か視線感じたもん」

唯「あはは……でもお似合いだと思うよ。イケメンさんじゃん」

……何気ないその言葉に、胸の奥が痛む。
美的感覚のほうには興味はないが、愛してもいない相手とお似合いと言われて、嬉しい人がいるだろうか?
もちろん、唯ちゃんに悪意がないことはわかっているし、こういう言葉は社交辞令の範疇だと理解しているけど。
否、理解しているつもりだったけれど。それでも、その言葉は、

紬「……本当に、そう思う?」

唯「え? うん、もちろん……」

紬「唯ちゃんは、あの人と私が愛し合っているべきだって、それが正しいって……それで唯ちゃん自身も幸せだって、そう言うの?」

唯ちゃんのその言葉は、私の再び抱いたこの想いを、真っ向から否定するものなんだ。

唯「っ………」

紬「………ごめん、何でもな――」

唯「――ムギちゃんは…もう既婚者なんだよ? それが…正しいよ。私の事なんて関係なくて、それが正しい夫婦の形だよ…」

私の謝罪を遮り発せられたその言葉は、いつかと同じく、私に向けられたものでありながら唯ちゃん自身に言い聞かせる言葉でもあって。
それでも、その言葉は私の問いを否定しきれてなくて。唯ちゃんの本心を、隠しきれてなくて。

でも私には、その本心を問い詰める権利はない。結果論ではあるけれど、唯ちゃんを突き放した形になる私には。
だから、問い詰めるのではなく告げなければいけない。私のほうから、ちゃんと言葉にして。

紬「――好き。愛してる。唯ちゃんのこと」

唯「っ……!」

きっと唯ちゃんのことだから、雰囲気を出したり、順を追って言葉にしていたらまた私を止めるだろう。指輪を盾に、私の言葉を防ぐのだろう。
ならばそんな暇なんて与えない。そしてそんな隙も与えない。指輪を抜き取り適当に投げ捨てて、更に言葉を重ねる。

紬「唯ちゃんがいないと、毎日が楽しくない。唯ちゃんがいないと幸せになんてなれない…!」

唯「ムギ、ちゃん……」

紬「私は、正しさより幸せが欲しい…! 唯ちゃんに一緒にいて欲しい!!」

告白しながら、気づけば私は涙を流していた。もちろん唯ちゃんの返事が貰えていない今、それは幸せの涙などではない。
それは恐怖。怯え、震える心の流す涙。
人として間違っている道に唯ちゃんを引き込もうとする卑怯な私が、それでもその誘いを拒まれることを何よりも恐れている。
拒まれれば私に後はない。唯ちゃんを、全てを失うだけ。それが怖くてたまらなくて。それでも、もう後戻りなんて出来なくて。
目を閉じ、俯いて涙を流しながら、震えて返事を待つしか出来なくて。祈ることしか出来なくて。
だから。



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