過去ログ - 紬「メンヘラ」
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27: ◆3/LiqBy2CQ[sage]
2011/09/15(木) 20:25:56.19 ID:+wTNpPwyo

―――…
――…


――コンコン、と、真っ白い扉をノックする。返事はいつも返ってこないけれど、承知の上。扉を引いて開け放ち、問いかける。

唯「……ムギちゃん、起きてる?」

紬「…唯ちゃん?」

唯「うん。入るね?」

ムギちゃんは、意外にも私を拒まない。
意外にも、とは言うが、あの出来事から一年が経過している。もう慣れたものだ。

――あの日。ムギちゃんが自らの視界を奪った日。救急車を呼んで、ムギちゃんの両親が駆けつけ、旦那さんの両親も駆けつけ、病院は大騒ぎになった。
私は事情の説明を求められたが、私にだって理由はさっぱりわからない。でもムギちゃんと寝たことだけは伝えた。ムギちゃん自身が裸だったから、それは言わないとしょうがないと思った。

でも言ったところで原因はわからず、ムギちゃん自身が何故か私に謝り続けているのもあって私はひどく疑われた。でも最終的にはムギちゃんの爪の間から眼球周りの組織成分が検出されたとかで、私がムギちゃんに危害を加えた線はなくなった。
それでも錯乱状態に陥らせた疑いは長い間晴れなかったけれど、後日のカウンセリングで落ち着いたムギちゃんが私を呼び、更に私がそばにいることで精神が安定するという結果が出たため、逆に礼を言われる事となった。

問題なのは両家の大人の対応。
旦那さんの家のほうは、視力を失ったムギちゃんを容易に切り捨てた。ここぞとばかりに旦那さんが仮面夫婦っぷりを暴露したのも大きい。
ムギちゃんの家の両親も、そんなことをした挙句に同性愛に走った娘を世間に出すことを拒み、この病院に閉じ込めることにした。琴吹家の地位も暴落したらしいから、それに対する対外的な仕打ち、見せつけとも取れるけど。

……そして他の、会う人皆がムギちゃんの手首の傷を見て顔をしかめる。

ムギちゃんは優れた人だった。そんな優れた人が、手首を切っていた。
周囲の人たちも優れた人だった。そんな優れた人は、ムギちゃんを失望した目で見た。

リストカットだけじゃない。視力を失ったこと、不倫していたこと、同性愛者だったこと、容易に他人を騙す人間だったこと。
私以外には相談しないほど、他人を信用していなかったこと。両親にも旦那さんにも愛想をつかされたこと。カウンセリングを受けるほど精神を病んでいたこと。
病院に軟禁される、未来のない人間とみなされたこと。

いくつかは明らかに尾ひれがついたような、過剰な言い分だったけれど。

結局のところ、私以外の皆が、ムギちゃんに失望した。


私に対する風当たりは、そこまで強くない。琴吹の家がムギちゃんのこと自体に厳重な緘口令を敷いているらしい。
寝取った形になるのだから旦那さんくらいからは恨まれてもおかしくはないと思っていたけど、その旦那さんはムギちゃんをあっさり切り捨てた後にスピード再婚している。お金持ちの世界にはいろいろあるのだろう。

ムギちゃんの両親は、私を責めつつもそれ以上に自らを責めてもいた。同性愛者に目覚めさせるような環境を与えたこと。したくもなかった結婚をさせたこと。少なくともそれらは親の責だから。
それでも全てを壊した私を許せはしないようだったけれど、私がムギちゃんを見捨てるつもりはない旨を告げると泣き崩れた。あの人たちもこれから先はいろいろ大変なのだろう。私から言う事は特に何もない。

私は、そんな人達に対して何も思うところはない。
ずっと気になっているのはたった一つ、ムギちゃんがああなってしまった理由だけ。でもそれを尋ねることはお医者さんから固く禁じられているからどうにも出来ない。

……私の中でもいくつかの仮説はあるけど、口にするつもりはない。
大事なのは私はムギちゃんを愛していて、ムギちゃんも今はちゃんとそれをわかってくれているということ。それだけで充分だと思う。

……まぁ、それらはともかくとして、これで名実共にムギちゃんの『一番』は私になった。
私もムギちゃんも明らかに不幸になっているけど、我慢して、頑張って、それらが実を結んだ結果が堂々と愛を叫べる場所ならそれもいいと思う。




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