過去ログ - アイリス「さよなら、ジャンポール」
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14:ny[saga]
2011/10/19(水) 21:10:26.76 ID:oNEfTHUU0
だが、
いつまで経っても、
衝撃は訪れない。

経ったのはほんの数秒のはずだが、大神には何時間にも感じられた。
もう死んでしまったのだろうか?
否、そうではなかった。
手が動く。足も動く。肉体に自由が戻っている。
思い切り、大神は眼を見開いた。
そこには自らの身体があった。劇団の全員も無事だった。
そして、アイリスも。

「な……ん……だ……?」

アイリス、いや、ポルナレフが大神に向けた掌を震えさせていた。
身体の自由が利かない。そんな様子だと大神は受け取った。
これが好機だと大神、マリア、カンナ、レニの四人はポルナレフに飛び掛る。
だが、四人とも何らかの衝撃に吹き飛ばされた。霊力は未だ健在のようだ。
しかし、弱い。
吹き飛ばされはしたものの、人にぶつかられた程度だ。大神達に大した負傷はない。
どうやら明らかにポルナレフは弱っているようだ。
ならば、と再び大神はポルナレフに飛びかかろうとしたが、ポルナレフの異変を無視する事も出来なかった。
押さえ込むのは、この異変が収まってからの方が好機だと思ったからだった。
苦しそうに、ポルナレフは呟きを続けていた。

「アイリスか……? いや、違う……?
てめえか……、てめえかよ! 出てくんな!
今は俺だ! 俺なんだよ!
てめえはいっつもいっつも俺の邪魔ばっかしやがって!
やめろ! 来るなっ!」

ポルナレフが烈しい痙攣を始める。
得体の知れない何かと何かがアイリスの中でせめぎあっている。
何が勝つのか、何が負けるのか、大神には分からない。
だが、大神にはどうしようもないという事だけは、よく分かった。
すぐにポルナレフの痙攣は治まった。
ポルナレフの首が力なく垂れ下がる。
前回と同じだ。
レニがアイリスに駆け寄ろうとするが、大神がそれを手で制した。

もしかしたら……。
もしかしたら、まだアイリスの中にポルナレフが宿っているかもしれない。
そう思うと、レニを危険な目に遭わせる事は出来なかった。
躊躇ったが、祈るような気持ちで大神はアイリスに近付いていく。

鼓動が高鳴る。
声を掛ける。
何度か揺らす。
眼を覚ますアイリス。

「お兄ちゃん……」

ポルナレフがまた演技をしているのかもしれなかった。
だが、ポルナレフという存在がよく知った現在、大神にはすぐに理解出来た。
今のアイリスは、ポルナレフでは、ない。
ポルナレフがアイリスの演技をしていても、今のアイリスとは何かが違う事が大神には分かる。
何がとはっきりとは言えないが、雰囲気や心が違う事が分かる。
そう。自分はアイリスの恋人なのだ。
それくらい分からずして、どうしろと言うのか。

「ごめんね……。
ごめんね……」

アイリスが泣き出していた。
先刻までの記憶があるのだろうか。ポルナレフという存在の事も。
だが、今はそんな事はどうでもよかった。
不意に途轍もなく切ない衝動が巻き上がり、大神は久々に再会できた自分の恋人を、人目も憚らず抱きしめた。
とても、強く。自らの温もりで包み込めるように。


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