11: ◆Neko./AmS6[sage saga]
2011/10/24(月) 21:45:08.15 ID:ucx2SsZ8o
女がバーテンダーに注文を伝えている間、俺は横目でそれとなく観察した。
帽子とサングラスが邪魔だが、色白の頬と上品な口元が美人であることを窺わせる。
社宅への入居がずれたのも、今にして思えば偶然じゃないのかもしれん。
「失礼ですが、その写真の方……もしかしたら?」
「えっ、いやぁ、そんなんじゃないんですよ。……まぁ色々とありまして」
カウンターの上に写真を置いたままだったことをすっかり忘れていた。
神様が俺のことを哀れに思って、こんな粋な計らいをしてくれたのに無駄にはできん。
俺は気取られぬようさり気ない動作で写真をスーツの胸ポケットに収め、
これまたさり気ない動作でハイボールをひとくち口にした。
「……恋人なんでしょ?」
「恋人というか、一応付き合っていたというか……うーん、どうなんだろう」
「嫌いになって別れた、というわけではないのでしょ?」
初対面の男に随分と無遠慮なことを訊いてくる女もいるもんだ。
しかし、多少なりとも酒が入っているせいか、今夜の俺は少しだけ饒舌になっていた。
はっきりとした容姿は分からないけど、俺の大好きなタイプであることは間違いない。
俺の長年の経験と勘がそう告げていた。
「古い知り合いなんですが、付かず離れず……といった感じです。
友だち以上、だけど恋人未満なんて言ったら、ちょっとキザに聞こえますか?」
女のタンブラーグラスには、オレンジ色の飲物がまだ半分ほど残っていた。
オレンジベースの何かのカクテルだろうか、俺がそう考えていると女も気付いたらしい。
「これはただのオレンジジュースなんです。……お酒は、まったくダメなものですから。
わたしは、お酒よりも雰囲気に酔ってしまう性質なんです」
「そうだったんですか、俺も自慢できるほど強いわけじゃないけど……」
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