4:nyan[saga]
2011/11/06(日) 23:55:00.94 ID:j596Ywtl0
○
「―――」
ずっと黙っている妹を怪訝に思ったのか、兄が優しく妹の名を呼んだ。
「ううん、何でもない。大丈夫だよ、あにぃ」
言いながらも、本当は泣き出してしまいそうだった。
それでも。
そう言わなければ自分が自分でいられない気がして、
それがとても不安で、そう言わずにはいられなかった。
そうかい? と訊ねる言う兄の声も少し寂しげだ。
当たり前だ。
そう。今日は妹と兄との別れの日なのだから。
兄は今日を境に遠い何処かへ行ってしまう。
何て事はない。
ただ、兄が進学するため、遠い街に行ってしまうだけだ。
それでも、張り裂けそうなほどに、妹の胸は激しく痛んでいる。
雪が降っている。街に。
哀憐と言う名の雪が降り積もる。妹自身に。
これは何処にでもある別離。
分かっている、そんな事は。
そして、それだけで納得がいかない事も事実なのだ。きっと。
とても愛しくて、切なくて、妹は兄の胸で泣きたいのだ。本当は。
けれど、それは出来なくて、ただ自分は佇んでいるだけで、
気が付けば、
あっけないほどに、
別れまでの時間は、
終わりを告げていた。
哀しいまでに時間は残酷で、別れの儀式はあっという間に終わった。
自宅での両親と兄とのお別れ会が終了し、
妹一人だけが遠くに行くバスまで兄を見送りに着いていく。
バス停に着き、バスを待っている時間も、妹は何も言う事が出来なかった。
兄はその気持ちを察していてくれたのか、ただ、傍に居てくれた。
何か言わなきゃ。
あにぃが遠くに行っちゃうのに。
ボクの大好きなあにぃと逢えなくなっちゃうのに。
だから、何か言わなきゃ。
震える拳を握り締め、何かを言おうとした。
けれど、口を開けば嗚咽しか漏れず、
瞳を開けば涙が出てしまいそうで、何も出来ず、
ただ、妹は兄の隣で眼を瞑って震える事しか出来ない。
神様、あとほんの少しだけでいいから、時間を停めてください……。
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