9:にゃんこ[saga]
2011/11/23(水) 19:29:45.83 ID:sZ6AzS2D0
ワタシは急いで紙の上に鉛筆を走らせる。
幸い、その生き物の動きはうちの近所に住んでいるネコ達ほど敏捷ではないようだった。
その生き物は誰かの家の跡地らしい塀に寝そべり、のんびりと欠伸なんかをしている。
これなら筆捌きがあんまり早くないワタシでも、この生き物をスケッチし切る事が出来そうだ。
柔らかそうなその生き物を撫でたい気分が何度か襲って来たが、
ワタシはそれをどうにか耐えながら、無心で見たままの光景を紙の上に描き上げていく。
本当は凄く撫でたい……。
ふわふわでもこもこした桃色のこの生き物……、
桃色のネコ(?)だから、仮に名付けて『ももねこ』を思う存分撫で回したい……。
だけど、それは駄目なのだ。
ネコは触れようとすると逃げていく生き物なのだ。
慣れれば撫でさせてくれる様になる事もあるけど、
ワタシとこのももねこはまだ初対面なのだ。焦りは禁物なのだ。
ワタシはネコが大好きだけど、ネコもワタシが大好きとは限らない。
だから、本当はとても心苦しいんだけど、
ワタシはネコ欲よりもスケッチ欲の方を優先させて、ももねこを描き続けた。
ふう……。
ももねこを大体スケッチし終わった頃、
ワタシは軽く溜息を吐いて、額に掻いていた汗を拭っていた。
こんな緊張感の中でスケッチをしたのは久し振りだった。
汗も掻くはずだ。
でも、うん、後もう少し。
もうちょっとでももねこのスケッチが終わる。
スケッチが終わったら、慎重にももねこに手を伸ばしてみよう。
こんなに近くでスケッチをさせてくれた事だし、
もしかしたらワタシに撫でさせてくれるかもしれない。
思う存分その柔らかそうな毛並みを撫でさせてもらったら、
ワタシと同じくネコが好きな鳥飼さんも撫でていいいかももねこにお願いしてみよう。
と。
そこでようやく、ワタシは自分が大切な事をすっかり忘れてしまっていた事に気付いた。
スケッチが一段落して、気分が落ち着いて、ワタシはやっと気付いたのだ。
一緒に歩いていたはずの美術部の皆が、周りに誰一人見当たらないという事に。
置いてかれてしまったのだ。
勿論、美術部の皆が悪いわけではない。
ももねこに目を奪われ、足を止めてしまったワタシの責任だ。
皆は足を止めたワタシに気付かず、先に行ってしまったのだろう。
悪いのはワタシ自身だ。美術部の皆を責める気は無い。
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