552: ◆tUNoJq4Lwk[saga]
2012/01/08(日) 20:01:27.18 ID:rjWT9VOTo
悪夢のような豪雨災害から数週間、梅雨もすっかり明けて見滝原の街に夏が到来した。
災害など嘘のように、街には笑顔があふれている。
多くの人々がそう感じていた。
夏の日差しとともに、空にはすがすがしいほどの青空が広がっている。
その青いキャンバスに一本の線を引くように伸びる飛行機雲。
見滝原総合病院の屋上で、それを見つめる車いすの少年がいた。
少年の後ろには、ウェーブがかった髪のおっとりした雰囲気の少女がたたずんでいる。
「夢を、見たんだ」
少年は、ポツリとつぶやく。
「夢ですか?」
と、少女は聞いた。
「うん。僕のこの手が治る夢さ」
「それは素敵なことですのね」
「でも、夢から覚めたら、また元のままだった。余計に悲しくなったよ」
「……たしかにそうかもしれません」
「だから僕は、その夢を現実にしてみようと思う」
「現実ですか?」
「うん」
彼は、動かない片手を持ち上げて空にかざす。
「いつかまた、この手でヴァイオリンを弾くときがくることを願って。僕は何でもするよ」
「私も、お手伝いしてもよろしいですか?」
「え? うん」
「ありがとうございます」
「お礼を言うのは、僕のほうさ」
少し、照れながら少年は頭をかいた。
「ありがとう、仁美――」
*
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