過去ログ - 夜叉「もうすぐ死ぬ人」
1- 20
3:JK[saga]
2011/12/14(水) 02:20:49.79 ID:7vHzEqmB0
雪と月夜叉が邂逅したのは、全く偶然からだ。
ある切欠により少々消耗していた月夜叉が遊戯場で暫し休息を取ろうとした際、
雪が長椅子に腰掛けて涙していたのだ。
通常ならば月夜叉も斯様な小娘には関心を寄せないのだが、
その日に限って彼女を気に掛けてしまい、言葉を思念として飛ばしてしまっていた。

それが、
二人の始まりだ。

雪は己が泣いている理由を語りはしなかったが、
月夜叉が人外の物怪である事を語っても気にする様子はなかった。
雪はただ只管に、己の傍に在る何者かを求めていたのかもしれない。
それが非人間であろうとも。
月夜叉は何故かそれを懐かしく感じ、その日以来、雪と友となった。

「どうしたの?」

珍しく感慨深くなっている様子の月夜叉を訝しんだらしく、雪が静かに訊ねる。

『否、少しな』

答えながら、己らしくないと月夜叉は考えた。
彼女は人の子が呼ぶ通り夜叉だ。
夜の淵を歩く者だ。
過去に思いを馳せるなど、夜叉の風上にも置けぬと夜族の者は言うだろう。
月夜叉は永久に等しい時を生きている。
退屈な時間をほぼ永久に。
故に過去に思いを馳せるなど、本来あってはならないはずだった。
されど、それも稀にならば、いいのかもしれない。

『閑話休題。
雪、昨日は私は何処まで話しただろうか?』

「あ、えっと……、
お月さんがずっと前に逢った男の人の話までかな?」

『雪……。何度も言うようだが、
その『お月さん』という呼称はどうにかならないだろうか?』

「だって『月夜叉』なんて、
ゲームのモンスターみたいな名前じゃないの。
そんな名前よりも『お月さん』の方が、とっても似合ってると思うよ」

『左様か』

似合っていると称された所で、
『お月さん』という呼称には慣れない。
月夜叉は少々度し難い複雑な心境になったが、
それも酔狂として小波の如き感情を在るが儘に受け容れた。
これも悪くはない。
何故だか斯様にも感じられた。

雪の言葉は強ち間違いとも言えなかった。
月夜叉の外見は人によって様々な印象を持つようだが、共通している見解もあった。
彼女は夜叉という呼称に似合わず、
妖艶で耽美であり、纏っている白の羽衣が天女の如き印象を人々に与えるようだ。
故に月夜叉という呼称よりは、『お月さん』の方が相応しいと言えなくもない。
少なくとも、雪の目には斯様に見えている。
ならば、月夜叉に特に異論は存在しない。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
40Res/54.44 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice