過去ログ - 夜叉「もうすぐ死ぬ人」
1- 20
4:JK[saga]
2011/12/14(水) 02:32:42.94 ID:7vHzEqmB0
無論、月夜叉は己の真実の姿を目にする事は無い。
月夜叉は人の子ではなく、生物ですらないのだ。
故に姿見に己の姿が映る事は決してない。
姿見にも、水面にも、彼女の姿は顕現しない。
太陽光の反射は、彼女を照らさない。
月夜叉は自らの姿を客観的に判断する事が出来ない。
故に、彼女を視認出来る者が語る姿こそ、彼女の真実の姿でよいのだろう。

思い、月夜叉は昨日、雪に語った自らの過去の続きを語り始める。
取り立てて特別な話ではない。
過去……、遥かなる過去……、
月夜叉が出会った珍妙な男との出来事の話だ。
男の話の全てを語り終わった後、
雪は目を丸くして感嘆の嘆息を洩らしていた。
それほどまでに感嘆する話ではないだろうが、されど雪は何かを感じていたようだった。

「どんな人にも……、
色んな事が起こるんだよね……」

誰に聞かせるでもなく、雪は呟いた。
様々な意味を含んでいる言葉ではあったが、月夜叉は敢えて問わなかった。
雪は続ける。

「お月さん……」

『どうした』

「お月さんはその男の人の事が好きだったの?」

『好き……?』

雪の言葉に月夜叉は呟いたきり、押し黙る。
その姿を不安に思ったのだろう。
雪は少々声色を小さくして呟いた。

「あたし、何か変な事訊いちゃったかな?」

『否』

そう答えはしたものの、
それは月夜叉に答えられる質問でもなかった。
好意とは如何様な感情なのか。
月夜叉がこれまで悠久の時間を掛け、疑問に思い続けてきた事でもある。
人の子が人の子に好意を持ち、深い関係性を築いていく生物だとは知っている。
好意という感情は、人の子にとって恐らくは非常に重要な現象なのだろう。
月夜叉にも長い時間を掛け、それが分かり始めている。

されど、月夜叉は己の中の感情が理解出来ない。
否、感情すら存在しない。
月夜叉は人の子ではなく、生物ですらない。
故に人の子の尺度で彼女を測ろうとする自体、無理な行為だ。
無論、彼女の尺度で人の子を測る事も不可能なのだが。
その程度には、月夜叉と人の子はかけ離れている。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
40Res/54.44 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice