過去ログ - 夜叉「もうすぐ死ぬ人」
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33:JK[saga]
2012/01/12(木) 20:38:33.78 ID:DE4CuiAp0
けれども、泉は幸福なのだ。
果てる事は不幸ではない。決して不幸ではない。
死は忌み嫌われ、至る事を恐怖とされるものである。
それは当然だ。

されど、人間は死を拒絶する事も出来ない。
死があるからこそ、人間は懸命に生きるものだと泉は考えている。
間近に死を控えていたからこそ泉は懸命に生きてきた。
長く生きていたいと思う事も多々あったが、
それ以上に短くとも懸命に生きる事を選択していた。
成人は出来ないだろうと医者からは言われていた。
泣いた日もあった。泣き伏せて己が運命を嘆いた日など、どれだけあったろう。
未来に絶望して、世の全てを恨んでみた事もあったが、それは無意味だった。

故に答えを出してやったのだ。
元来、頭を使うのが苦手だった泉に、取り立てて大層な答えが出せたわけではない。
短い人生ならば人の何倍も濃い人生を送ってやろうと、ただそれだけの単純な答えを出しただけだ。
されど絶望して何もしないよりは、何倍もマシだろうと泉は思った。

己の責任を全て他人に押し付ける連中、
努力しない事を正当化する連中、話にならない甘い連中。
斯様な連中よりも愚鈍でもいい。
楽な生き方を選択出来ない莫迦な人間で構わない。
ただ一生懸命に生きて行こうと思ったのだ。

酷い失敗に泣き出したくなる日々を過ごした。
努力が至らず、挫折と落胆に陥った日々も数多かった。
されど、彼女はその生き方を通したのだ。
愚鈍と嘲笑われながら。

故に現在、死の淵にありながらも、
彼女の中にある感情は断じて悲哀ではなかった。

「私、頑張れたかな……」

周囲は一面の銀世界。
返事を期待して呟いた言葉ではなかった。
されども、その言葉には何者かが応えたのだった。

『……頑張れたのか、泉?』

ひどく懐かしい澄んだ声。
遠い昔、泉の前に現れ、友となった夜叉の声。
彼女は月夜叉。
新月の夜にも顕在する、月の下を往く夜叉だ。


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