過去ログ - 打ち止め「失恋でもしたの?」一方通行「……かもな」
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943:ワガママの代償[!蒼_res]
2012/04/01(日) 02:17:30.27 ID:PwzajTw/0


激流に飲まれた木の葉のように己の身体が圧倒的な力に振り回されているのを少女は認識していた。
認識しながら小さな少女は懸命にその意識の糸を切らさぬように保ち続ける。
少しの気の緩みが意識を刈り取り、自分という矮小な存在を噛み砕いてしまう事はわかっているからこそ歯を食い縛る。
気を張り詰め、術の発動を見届ける。
激流の中にあって手綱を握る手を決して放しはしない。
それは使命感などではなかった。


原典の維持に必要なカロリーは膨大である。
それは少女自身の成長を止めてしまうものであり、禁書目録という性質に付いてしまった「呪い」とも言えた。
しかし、その呪いを超えて影響を及ぼすものがあるとすれば。
この世界に共通する『時』の概念。
生物、無機物問わず時の ――― 『老い』の概念から逃れることは出来ない。
無論、結界、封印、呪いという術式すらも劣化という名の老いから逃れることは出来ない。
その概念を止める禁書目録の呪いを一つの術式として捉えるのならば。
呪いを劣化させ、綻びの隙間を縫い無理矢理時計の針を進めることが出来れば。
自身の片隅に記憶された古びた名も無き原典にしたためられたとある術式を見つけた時、ざわめく心を抑えられなかった。

この魔術ならば自分の身体を成長させる事ができるのではないだろうか。

自分の耳元で囁く声をインデックスは聞いた気がした。
禁術だという事は知っている。
許されることではない、そして上条も決して自分が禁を犯すことは認めないだろう。
それでも、一度生じたざわめきは頭の中を己の意思を離れて広がっていく。
上条の隣で赤子を抱いて幸せに微笑む年相応の姿になった自分。
それを恋する少女の他愛も無い空想と断じるには、あまりにも少女の境遇は重く、脳裏を過ぎった空想は抗いがたい甘い誘惑であった。

少女が暴力的な渦の中にあってその儚くすらある己を見失わないのは単純な理由。

再び、会いたい男がいるから。

再び、前に立ちたい男がいるから。

違う自分で、少女は立ちたいと強く願う。
自分のワガママで傷つけてしまっただろう心優しい青年の顔をその瞼の裏に映しながら。



とうま……


とうま、とうま、とうま ――――


世界で最も愛しいと思う言葉を呪文代わりに心で唱える。
少女に勇気を与えてくれるたった一つのワードを何度も何度も唱え、痛みすら伴う激流を禁書目録と呼ばれる少女は耐え忍ぶ。
しかし、健気に耐え忍ぶ少女を嘲笑うかのように激流は少女の心へと雪崩込む。


とうま、とうま、とうま


とうまとうまとうまとうまとうま ――――



そして―――






―――― とうま!






遂に重さと痛みと息苦しさに、張り詰めていた何かが切れる音を最後に、インデックスの意識は途切れた。







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