26:にゃんこ[saga]
2012/01/20(金) 19:38:16.96 ID:RkUbXfly0
「でも……、何だ?」
「でも……、でもね……、そう。
私ね、頭脳労働が出来るから、しているわけじゃないのよ。
頭脳労働しか出来ないから、理屈付けないと恐いから、そうしてるだけなの。
怪奇現象を恐がる子が、オカルトに詳しくなるみたいなものかしら。
そういう子達はね……、
自分が受け容れたくない物を否定するために知識を得て、理屈をこねるの。
恐いから。分からない物が恐いから。
理論武装して、理解出来ない現実から逃避するために……。
私もそうなんじゃないかって……、こんな状況になって思うのよ」
これも多分、初めて聞く和の弱音。
いつも冷静に見える和だけど、やっぱり相当に参っているのかもしれない。
そりゃそうか。
しっかりした性格の和だって、まだ未成年の女子大生なんだから。
それに、特に和は……。
そう考えた私は和に訊ねていた。
訊ねるべき事じゃ無いかもしれないけど、訊ねておきたい事だった。
「なあ、和……。
やっぱり心配だよな、家族の事……」
「……ええ」
私の言葉に、和が素直に頷いた。
あんまり会った事はないけど、和には大切な家族が居る。
まだ小さくて手の掛かる、大切な兄弟が居るんだ。
心配じゃない方がおかしい。
私だって……。
この世界から人が消えてしまった事が恐いのは、
何も自分達が取り残されたからってだけが理由じゃない。
一陣の風と一緒に消えてしまった人達が、
一体どうなってしまったのか分からないのが一番恐いんだ。
さわちゃんや軽音部の新入部員の子達、
皆の家族や私の父さんや母さん、それに聡……。
皆、どうなってしまったんだろうか……。
この世界じゃない何処かの世界で過ごしてるんだろうか……。
聡は元気に笑ってるんだろうか……。
あまり手の掛からない出来た弟の聡ですら、こんなに心配なんだ。
幼さの残る兄弟を持つ和の心配は、私の想像も出来ないほど大きいに違いない。
本当は不安と恐怖で叫び出したいくらいだろう。
だから、和は精一杯頭を働かせて、その心配や不安や恐怖と戦ってるんだ。
私は和に歩み寄って、軽くその肩を叩いた。
今の私が和に出来る事は多くない。
私に出来る事は、そう、正直な気持ちを和に伝える事だけだ。
657Res/1034.29 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。