345:にゃんこ[saga]
2012/04/20(金) 18:25:54.45 ID:CZrAexFF0
言って、私はムギの頭を撫でた。
普段、ムギは大人っぽいのに、色んな所で子供っぽい仕種を見せる事がある。
もしかしたら唯よりも天然で、子供っぽい所があるのかもって思うくらいだ。
どうも放っておけない……、そんな気にさせるんだよな、ムギは。
考えてみれば、この閉ざされた世界を一番怖がってるのはムギかもしれない。
最初こそ怖がってたけど、澪はこの世界には慣れて来たみたいだし、
唯も梓も怖がってると言うよりは、次に誰かを失う不安感の方が強いみたいだ。
私も怖いって言うより漠然とした不安があるくらいだしな。
その点、ムギは私が怪我した時の様子から見ても、この世界を一番怖がってると思う。
まあ、ムギの言ってる事は間違ってないけどな。
人は一人では生きていけない。
それは寂しさに耐え切れないからってのもあるけど、
自分一人で出来る事が限られてるからって意味でもある。
例えば前にムギが言ってた事だけど、私達の誰かが破傷風になったとする。
それだけでもう終わりだ。
破傷風の正確な治療が出来る人間なんて、私達五人の中に居るはずもない。
死ぬしかないんだ。ちょっとした重い病気に感染しただけで。
病気だけじゃない。怪我や事故……、下手すりゃ盲腸ですら死ぬ可能性が高いんだ。
ムギはそれを分かってるから、この世界を心の底から怖がってる。
だから、「もうやだ!」って泣き叫んだんだ……。
もう泣かせたくないって、心からそう思う。
私じゃ力不足だと思うけど、出来る限りはムギの不安を取り除いてやりたい。
多分、私に出来る事は、笑顔を見せてあげる事だけだろうけどさ……。
でも、出来る限りの事はやらなきゃな。
私は出来る限りの笑顔で微笑んで、もう一度ムギの頭を撫でた。
「ムギだってキーボードを選んだ事、後悔してないだろ?
私、好きだぞ、ムギのキーボードと作曲。
ムギのおかげで色んな曲が演奏出来たわけだし、私、すっげー感謝してるんだぜ?」
「そう……かな……。
私のキーボード……、皆の役に立ててたかな……。
でも、りっちゃんが喜んでくれてるなら、私も嬉しいな」
「何言ってんだよ、ムギ。
ムギが居なきゃ、誰が作曲するってんだよ。
少なくとも私と唯には無理だぞ?
澪と梓は出来るかもしれないけど、
多分、洋楽かぶれなテクニック重視の曲になりそうだしな。
テクニック系の曲が悪いわけじゃないけど、私はムギの曲が好きだな。
あ、澪の歌詞はまだ苦手だけどさ。これは澪には内緒な。
あの甘々の歌詞、未だに背中が痒くなるんだよなー。
ここだけの話、梓も結構背中が痒くなってるみたいだぞ?」
「そうなんだ。
りっちゃんがそう言ってくれるの、すっごく嬉しい。
ありがとう、りっちゃん……」
「へへっ、よせやい。
感謝してるのは私の方なんだからさ」
そうして、二人で笑う。
怖がりながら、不安に塗れながら、それでも向け合えられた笑顔。
こうして少しずつ笑い合えれば、この閉ざされた世界でも生きていけるはずだ。
残された五人で、生きていける。
そう思ってた。
……そう思おうとしてた。
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