462:にゃんこ[saga]
2012/05/22(火) 18:03:41.47 ID:x6fXrDtV0
一瞬、私はそれ以上の言葉を出すのを躊躇った。
まだはっきりしない記憶を口に出すのもどうかと思ったし、
それ以上にその記憶をはっきり断定させるのが怖かった。
あの日、私達は大怪我をした。したはずだ。
怪我をした箇所は、私は右腕、ムギも右腕で、澪は左脚、梓が肋骨。
そして……、唯が……。
唯……が……。
「私……、本当はね……」
不意にムギが静かに語り始めた。
口を挟めるような様子じゃなかった。
私は……、私達はじっとムギの次の言葉を待った。
三十秒くらい経っただろうか。
ムギが決心した表情でまた言葉を出した。
「何度か……、夢で見てたの……。
世界から皆が居なくなっちゃってすぐの頃からかな……。
皆がね……、大怪我をしてね……、
血まみれでね、倒れててね……、凄く……凄く怖い夢でね……。
それで……、それで唯ちゃんが病院のベッドに……、ベッドに居てね……。
私……怖くて、でも、夢の話だから、皆に言い出せなくて……。
ごめん……、皆……」
決心した表情だったけど、ムギの肩は震えていた。
言葉にする度に、夢の恐怖を思い出してるんだろう。
それを必死に抑えてるんだ……。
私はそんな夢を見た事は無かったけど、
個人それぞれで記憶の残り方が違ってるって事なんだろうと思う。
でも、なるほどな、って思った。
やっぱり、ムギは私達に何が起こったのかを、夢に見る事で何となく思い出してたんだ。
それで私達の中で一番この世界を怖がってたんだろうな……。
ムギの肩は長い間震えていた。
ひょっとすると、泣き出しているのかもしれない。
ムギはずっと私達の事を心配してくれていた。
誰かが死んでしまう事を嫌がっていた。
だから、自分が見た夢を現実に起こった事だと思いたくないんだろうと思う。
私だってそうだ。
私が思い出した過去の方が、本当の意味での夢だったらどんなにいいだろう。
どんなに幸せだろう。
でも……。
唯がこんな状態になってる以上、もう目を逸らしてるわけにもいかなかった。
目を逸らしてたら、今度こそ本当に手遅れになる。
もう手遅れになってしまうのは嫌だ。
絶対に……、嫌だ……!
もう……、仲間達を失いたくない……!
だから、私は自分が震えてるのが分かりながらも、何とか言葉を口に出した。
657Res/1034.29 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。