過去ログ - 律「閉ざされた世界」
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535:にゃんこ[saga]
2012/06/10(日) 18:32:23.36 ID:bX5VV6EK0
ふと、静かに風が吹いた。
少しだけ涼しさを感じる軽い風だった。
瞬間、梓は少しだけ全身を震わせたみたいだった。
肌寒さを感じたわけじゃないと思う。
生き物の姿が消えてしまった風と、和達の姿が消えてしまった風を思い出したんだろう。
私達以外の物を消し去って行く風。
あの一陣の強い風の事を。

正直言うと、私だってまだ怖くて震えそうになる。
また誰かを失ってしまうなんて、考えたくもない。
まだまだ皆と傍で笑い合っていたいのに、あの風は私達から色んな物を奪い去って行く。
夢みたいに、何もかも消し去ってしまう。
ビニール紐を結んで来るべきだったかと、一瞬後悔しそうになる。
でも、私はそれをすぐに振り払った。
私はもうそういう物に頼るのをやめなきゃいけないんだ。


「律先輩……、あの……」


梓が私の腰に視線を向けながら不安そうに声を出した。
私の腰にビニール紐が結ばれてない理由を訊きたいんだろう。
でも、それ以上の言葉を躊躇ってるみたいだった。
私がビニール紐を結んでないのは、
梓が急に飛び出したのを追い掛ける事になったから、
紐を結んでる時間が無かったからじゃないか、って思ってるに違いない。
私はその梓の不安には、軽く首を横に振って応じてやる事にした。


「ビニール紐はさ……、結ばなかったんだよ、梓」


「すみません……。
私が……、飛び出しちゃったから……」


「いや、勘違いしないでくれ、梓。
結べなかったんじゃなくて、結ばなかったんだ。
もうビニール紐を結ぶのはやめる事にしたんだよ」


「え……っ?」


梓が大きな瞳を更に見開く。
私の言葉を信じられなかったんだろうし、信じたくなかったんだろう。
そりゃそうだろうなって思う。
折角梓が考えてくれた私達が傍に居られる方法を、私の方から拒絶したようなもんだからな。
梓が驚いて、辛そうな表情になるのも当然だった。


「でも……、でも、それじゃ……。
もしまたあの風が吹いたら、皆さんが……、皆さんがバラバラになっちゃうじゃないですか。
離れ離れに……なっちゃうじゃ……ない……ですか……。
そんなの……、そんなの……って……」


梓の声がまた震え始める。
ホテルの部屋の中で泣き出した時と同じ、悲しみのこもった声だった。
私はまた梓を悲しませてしまったんだろう。
自分が見捨てられてしまったような気分にさせてしまったのかもしれない。
私だってそんな梓の声を聞くのは辛かったけど、伝えないわけにもいかなかった。
この先、この世界で何が起こったとしても、私は最後まで皆と仲間で居たいんだって事を。


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