568:にゃんこ[saga]
2012/06/17(日) 17:53:39.02 ID:LMLRxZRo0
「なんちゃって」
「……えっ?」
「そんな顔しないで下さい、律先輩。
寂しかったのは本当ですけど、律先輩の気持ち、私、分かってます。
私の事を考えてくれてたんだってちゃんと分かってます。
律先輩の気遣い、嬉しいです。
でも……、寂しかったのも本当ですから……、その事も知っていてほしかったんです。
両方、私の本当の気持ちなんですよ?」
嬉しかった気持ちと寂しかった気持ち。
二つとも本当で、二つとも嘘が無い。
矛盾してるみたいだけど、梓の言ってる事はよく分かった。
多分、私だって同じだからだ。
この閉ざされた世界に来て、辛くて苦しくて、でも、嬉しさもある。
どんな形でも、唯ともう一度話せるようになった事は、
何を犠牲にする事になったとしたって、確かに嬉しい事ではあるんだ。
もしかしたら、梓はこの世界に対する想いも同時に私に伝えてくれたのかもしれない。
とは言え、久々の梓の生意気発言をそのままにしておくのも、何となく決まりが悪い。
私はいつもよりちょっとだけ弱く、梓の首に回した腕に力を入れてやる事にした。
「それならそうと、からかわずにちゃんと言え、中野ー!」
「あははっ、ごめんなさい。
痛っ。痛いですって、律先輩。
痛い痛い。すみませんってばー」
痛い痛いと言いながら、梓は私から逃げようとはしなかった。
私も梓から離れたくなかった。
梓の傍に居られる事は嬉しいし、とても安心出来る。
前みたいに梓とこんな風にふざけ合える事がこんなに嬉しくなるだなんて、思ってもみなかった。
私の想像以上に、梓は私の中で大きな存在になっているらしい。
いつまでも二人このままで居たい気持ちは正直ある。
でも、そういうわけにもいかなかった。
まだやらなきゃいけない事は残ってるし、いつまでも傍に居るのが仲間だって事じゃない。
私は名残惜しく梓から腕を放すと、少し溜息を吐いてから言ってみせた。
「それにしても……、本当に治らないよな、おまえの日焼け。
日本に居た頃ならともかく、ロンドンのこの気温で日焼けしたままってのは何か怖いよなー」
私が腕を放した事でまた寂しそうな表情になっていた梓だけど、
その私の言葉を聞くとすぐに苦笑してくれた。
自分自身の身体の事なんだ。私に言われなくても百も承知って事なんだろう。
それでも、梓は律儀に私の言葉に応じてくれた。
「ホントですよね……。
正直、自分の身体の事ながら、私だって結構怖いです。
いえ、確か私の本当の身体じゃなかったんでしたよね?
律先輩達の推論が正しければ、この身体は唯先輩の私に対するイメージ……なんですよね?」
「ああ、確定したわけじゃないけど、多分……な。
この世界で私達の意識以外の物は、全部唯の夢のはずだよ。
私達以外他に生き物が居ないのも、それが原因なんだろうな。
生き物の外側まではイメージ出来るけど、その中身までは作れないんだと思う。
生き物の精神構造なんてさ、想像以上に複雑な物だもんな。
だから、こんな変な世界が出来ちゃったんだろうな」
「そうですね……。
妙な所で唯先輩らしいと言うか何と言うか……。
でも、そんな事より唯先輩ったら……」
「ああ、そうだよな……。
唯の奴……」
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