621:にゃんこ[saga]
2012/06/27(水) 18:39:04.20 ID:1YUM5IIB0
◎
妙な緊張感がこの世界と私達を包む。
別に皆が何かを怖がってるってわけじゃない。
私が勿体ぶって演奏する曲目を皆に伝えてないってだけだ。
ちょっと意地悪な気もしたけど、それでいいんだとも私は思ってた。
私達がこれから演奏するのは、梓が歌うあの曲だ。
梓が好きになってくれて、絶対音感も無いのに耳コピで楽譜に書き起こしてくれたあの曲……。
それを知った時、私は驚いたし、凄く嬉しかった。
私達の想いを受け取ってくれていたんだって思えて、感動するくらい嬉しかったんだ。
この曲を演奏した後、唯達にもそれを教えてやりたい。
皆、きっと私と同じくらい喜んでくれるだろうな。
澪、唯、ムギが私に視線を向けている。
そろそろどんな曲を演奏するか教えてもらわなきゃ、不安なんだろうな。
私としてもこれ以上勿体ぶるつもりはない。
一息吐いてから、私は梓と視線を交わす。
緊張した面持ちで梓が頷いたのを見届けたから、私は大きく息を吸い込んだ。
ロンドン中……は無理だろうけど、
せめてこの広場全体に聞こえるくらいの大声で、ライブの開催を宣言する。
「よっしゃあっ!
これから私達の最初のライブを開催するぞおっ!
最初の曲は放課後ティータイムで『天使にふれたよ!』だあっ!」
「ええっ?」
唯、澪、ムギが同時に声を上げたけど、
私はそれを気にせず両手のスティックを胸の前で三度叩いた。
それに合わせて、唯達も戸惑いながら演奏を始める。
始まりこそ急だったけど、皆はブランクがあるとは思えない演奏を聴かせてくれた。
唯も、澪も、ムギも、勿論梓も見事な演奏だ。
畜生……、やっぱり皆上手いな……。
音楽の才能が無いのは私だけなのかなって、一瞬不安になる。
でも、そんな不安なんて、すぐに吹き飛ばしてやる。
下手で元々。駄目で元々。
才能が無い分は勢いと魂と想いでカバーしてやるんだ。
どんなに才能が無くたって、技術が足りなくたって、私は音楽が大好きなんだから!
『天使にふれたよ!』の演奏はすぐに歌のパートの寸前に入る。
自分が歌うべきなのかって訊ねるみたいに、唯が私に視線を向けた。
それには首を横に振る事で私は応じた。
その私の行動で皆、今回の演奏はインストゥルメンタルかと思ったに違いない。
事情を知らなかったら、私だってきっとそう思ってた。
だけど、そうじゃない。
今回は三人ともびっくりするサプライズがあるんだ。
歌詞パート。
緊張した様子で顔を赤くしながら、梓が大きく口を開いて歌い始める。
高い、独特の声で、私達が考えた歌詞を言葉にして、届けてくれる。
私達への返答みたいに、歌ってくれる。
唯達が心底驚いた表情で梓を見つめる。
梓がわかばガールズでボーカルをしてる事は知ってはいたけど、
まさか『天使にふれたよ!』を歌ってくれるとは夢にも思ってなかったんだろう。
いや、少しは思っていたのかな?
楽譜すら受け取っていなかったはずの『天使にふれたよ!』を梓が演奏し始めた瞬間、
梓がこの曲に強い思い入れを持ってくれていたって事は、三人とも分かっていただろうからな……。
まあ、その辺りはどっちでもいい。
今は演奏と旋律に集中するべき時なんだ。
梓は歌う。
歌詞の全パートを。
顔を真っ赤にして若干震えながら、でも、逃げずに精一杯歌ってくれる。
私達が梓に贈った歌を言葉にして、旋律に乗せてくれる。
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