過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
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461:卒業式(お題:パイプ椅子)  ◆Qfu.mTwFskGG[sage]
2012/06/01(金) 09:29:37.87 ID:wtElJCM/o
体育館には扉が三つあったが、そのどれもが硬く閉ざされていた。
体育館の半面を四角く描くように歩き再びパイプ椅子へ戻る。
答えは未だ出ない。
疑問はどのようにしてここまで移動して来たのかという所に帰結した。
この体育館があるはずの場所は男が暮らしていた街からは遠く離れていた。
男が生まれたのは海の見える小さな港町だった。子供の少ない町では皆が兄弟のようであった。
少ないながらも硬い友情で結ばれた仲間と共に、男は潮風に吹かれながら海へ、山へと忙しい毎日を送っていた。
だが、そんな生活も永遠には続かなかった。
小学校を卒業するのに併せて、男は両親の都合により生まれ育った町を離れることとなる。
移り住んだ先は今までとは比べ物にならないほど人に溢れた都会だった。
木々の代わりにビルが立ち並び、海の代わりに車が犇く様はまさに異界だった。
そうした環境に男が適応出来なかったのは言うまでもない。
最初は男の周りにも多くの人が集まった。
しかしそれは転校生という看板に吸い寄せられたに過ぎなかった。
月日が経つにつれ、一人、また一人と男の元から人々は離れていった。
こうして世界は男から笑顔を奪い去った。
残されたのはただ与えられるだけの日々だった。
元来真面目だった男はひたすらに勉学に励んだ。
それはまるで何かから逃げるかのように。
夢も目標もないままに高校、大学へと進んでいった。
気付いたときは男の元には何も残っていなかった。
大学を卒業したとき男に与えられた称号は『ごく潰し』だった。
以来男はただ時間を消費するだけの生活を送っている。



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