576:世界から与えられる罪と罰(お題:瞬間)4/4[saga]
2012/07/03(火) 17:49:13.34 ID:sT2Fhxi60
コーヒーの水面に映る彼の目は、すでにもう世界に対して怯えきっていた。
世界の果ては確実に君を捉えるし、空と海が交じり合ってでも罪は君を巻き込もうとするだろう。
テーブルに置かれたメニュー表には確かにそう書かれていた。
彼はもう自首したかった。誰に向かって自首すればいいのか分からなかったが、自首して匿われ、しかるべき場所で、安全に罪を償いたかった。
彼は目の前の壁を見つめながら考えた。言葉にならない何かがたくさん浮かんでは消えて行った。彼は壁を見つめながら、混乱していく。壁はいつまでも白く、硬く、四方八方を塞いでいた。
やがて彼は喫茶店で多くの時間をかけ、世界に向かって自首することを決めた。
例え彼のその意思を世界が受け入れないとしても、彼は何度も自首しようと決めた。彼はこの罪をしっかりと償い、罪と向き合わなければいけない。
そうして罪を認めた彼に対して、厳格さを貫いていた世界はやがて彼に向かって優しく微笑んで、彼に手錠をかけるだろう。二度と出られない暗闇の中に放り込むだろう。光のないその部屋は、しかし彼にとってふさわしい場所のようにも思えた。予め、彼が生まれた時から用意されていた収まるべき部屋であるように思えた。その暗く、窓も扉も無い部屋は、彼にとって正にふさわしい部屋となるだろう。
そして彼は想像する。世界から手錠をかけられる瞬間を。その瞬間はとても美しいだろう。彼の綺麗な体と心が決定的に汚されてしまったと認められる瞬間。全てを諦め、世界に捕らえられる瞬間。その瞬間を彼は想像して、鳥肌が立った、世界にこれほどまでに美しい瞬間があるだろうか。手錠で捉えられ、決定的に暗い部屋に送られる瞬間。涙が出そうな程に狂おしく、美しく、まさに自分にふさわしい瞬間ではないか。そうか、分かった。初めからこの瞬間のために自分は生きてきたのだ。この瞬間を迎えるために、絵に、私は生まれてきたのだ。
さぁ、手錠をかけてくれ。私は喜んでその美しい瞬間を迎えよう。
罪に対しては罰が与えられなければいけない。私はその美しい断りを、素直に認めようじゃないか。犬として、犬を殺してしまった罪を、共食いをしながら身を滅ぼしていく罪を。
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