939:みんなでしあわせになりたいな 2/8 ◆pxtUOeh2oI[sage saga]
2012/08/12(日) 16:20:47.95 ID:Fg9PIfkpo
ミズキは興味なさげに、白米をほおばっていた。そのあと笑った。
「ありがと」
アズランさまは神様である。
ずっと昔、この国を三分にしていた大宗教のうちの一つ、アズール教の女神であった。しかし、今は現代、次
々に科学が発展していった過程においてアズール教は、この国の宗教はほぼ形をなさないものとなっていた。
教会のような建物もなく、毎週お祈りに来るような人も減った。人々の祈りの減少に従って力の衰えていった
アズランさまは、今でもアズール教を信望している珍しい一家であるこの国府津家の一軒家に、ドラえもんみた
いな様子で済んでいた。昔は大御殿に住んでいたアズランさまなのにだ。
「アズランさま、宿題やって」
「自分でやりなよ。私はリビングの蛍光灯を換えてってお母さんに言われてるんだから」
アズランさまの力は、人々の信じる心によって決まる。
もっと言えばそれは普通の人間も同じだった。信じる心によって、神も人も昔は魔法が使えたのだ。そのレベ
ルが違うだけで。
大昔であれば、アズランさまは、天気を操り人々を怯えさせ敬わせ、いろいろな貢ぎ物を要求したりもできた。
だけど、今は、この町でアズランさまを信じているのはこの一家しかいないため、ほんのちょこざいな魔法ぐら
いしか使えなかった。蛍光灯のカバーを外さずに、中身の蛍光灯を新品と入れ替えたりとか。あのカバーには虫
の死骸が溜まっているから手ではあけたくないのである。ちなみに小さな羽虫の死骸も魔法で庭に捨てるという
完璧さ。
アズランさまは、自分の衰えを自覚していたけれど、あの青狸よりは役に立つだろうとも自負していた。
「アズランさまってバカだから、中学生の宿題できないんでしょ?」
「そんなわけないじゃん。貸してよ」
いくらなんでも中学生の、それも一年生の問題がわからないはずがない。はずがない、はずだった。
「わたし、この国の生まれだから英語はちょっと……」
三単現のSの使い方にとまどうアズランさま。今の子供はこんな難しいことをやっているの? と思う。
「あたしもこの国の生まれだけど、これぐらいわかるよ。アズランさま、わからないんでしょう」
「それはミズキがわたしのことバカだと思ってるからだよ。いつも言ってるでしょ。ミズキが信じてくれればそ
れがわたしの力になるって。信じてよ」
「たかが英語の宿題にそんな……アズランさまは三単現がわかる。アズランさまは三単現がわかる。アズランさ
まは三単現がわかる」
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