過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
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975:その命、尽きるとき(お題:女神) 8/10 ◆AWMsiz.p/TuP
2012/08/12(日) 23:31:09.44 ID:j3F87tL90
 喉がへばりつく感触で、僕は飛び起きた。口の中がからからになっている。全身にぐっしょりと汗がまとわりついており、脳みそは靄
がかかったようにぼやけていた。時計を確認すると、時間は十四時になっていた。茂さんと別れた後、四時間も居眠りをしていたことになる。
 のろのろと立ち上って駄菓子屋の中に入り、冷蔵庫からラムネを取り出した。最近のラムネはビンじゃないところが残念だ。プラスチ
ック容器の先端にあるビー玉を押すと、ラムネが待ってましたとばかりにしゅわしゅわと音を立てた。
「この暑いのに、よう寝れるわ」
 僕が一息つくのを待って、祖母がいった。
「たまに自分が怖い」僕は祖母の隣に腰を下ろした。
「そういえば、ここ最近、茂になんやら頼まれとっただろう」
「えっ? うん。まあ、人探し」
 答えながら、祖母は本当に耳が遠くなったのだろうか、と疑問が湧いた。
「よう知らんけれど、あの呆けの言う事を真に受けたらいかんよ。あいつは昔から調子のいいことばかりいいよる」
 僕はラムネのビー玉を、くぼみに引っ掛けずに飲んでみた。挑戦してみると、なかなか難しい。気を緩めた拍子に、ビー玉が飲み口を塞いだ。
「むかし嫁さんを見つけたときもそうさね。浮かれ腐って、転んで肥溜めに頭から突っ込みよった」
 ぶはっと僕は吹き出した。今の子供を叱る茂さんからは想像もできない。
「阿呆なんよ。あいつは。女神様を見つけた、とか野良犬にまで自慢しとってなあ」
「女神様?」
――女神様に会いたいんだ。
 ふいに茂さんの声が聞こえた。背筋が震えた。
 次の瞬間、僕は走り出していた。子供の頃、遊んだ空き地。その隣にある茂さんの家に向かって全力で走っていた。
 空き地を通り抜け、その隣の家に向かう。子供の頃ガラスを割るたびに、震えながら通った門。その表札を見て、自分の馬鹿さ加減に
腹が立った。表札には『村上』とあった。村上咲子。スナック『銀河』の前で事故死した女性。彼女は茂さんの奥さんだ。
 玄関のドアを割れんばかりの勢いで叩く。薄い扉ががたがたと揺れた。どうやら茂さんはどこかに出かけているらしい。もしかしたら、
すでに柴田めぐみに会いにいっているのかもしれない。
 僕は茂さんの家の前にあった鍵の無い自転車を乱暴に掴むと、柴田めぐみの家へと急いだ。柴田めぐみが危ない。村上咲子が茂さんの
奥さんだとわかった今、事は非常に単純だ。スナックで働く女。そこに通う夫。ナイフを持った妻。茂さんはスナック『銀河』で働く柴
田めぐみに入れ込んだ。どこまでいったのかはわからない。とにかく奥さんがナイフを持って、柴田めぐみの元に行くほどのことだ。しか
し、村上咲子はナイフを持ったまま事故に会って亡くなってしまう。茂さんは女神に謝ることすらできなくなってしまった。
 亡くなった奥さんに謝る方法を、茂さんはずっと考えていた。自身の死期が近いことを悟った茂さんの思考が、柴田めぐみの殺害に辿
りつくことは想像に難くない。亡くなった奥さんが死の直前に行おうとしていたことを受け継ぐことで、それを贖罪にしようしたのだ。
探偵に頼まなかったのも、柴田めぐみを殺した後に足がつくのを恐れたからに違いない。茂さんが捕まれば、動機を追及されることにな
り、女神の殺意が暴かれる。それは避けたかったのだ。


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