11: ◆JbHnh76luM[saga]
2012/02/03(金) 10:21:14.63 ID:ui263o5To
  
  拡声器を使って敵に呼びかける。相手も理解したのか、隣の空間を指差し、そこで決着を付ける事を指示した。 
  
 (勝てるのか?) 
  
  そんな疑問でいっぱいになる。仮にも相手は百戦錬磨のライダーだ。素人同然のシェルの腕前で勝てるとは到底思えない。 
  
 (でも、やるしかない) 
  
  剣を抜いて構える。敵は朱い4脚タイプが剣を抜いて前に出た。白い重量タイプは手にしていた槍状の武器を仕舞う。 
  ライノクラフト同士の戦闘は基本的に1対1が原則となっている。これは不文律としてライダー達に浸透しており、1対多の戦闘は大規模な戦争でも起こる事が少ないと言われている程である。 
  
 「いくぞぉぉぉっ!」 
  
  一気にトップスピードに乗ってまずは敵めがけて一撃。が、いとも容易く盾に弾かれる。続けざまに2撃、3撃と放つが、ことごとく盾に阻まれてしまう。相手が中量級ということもあって盾の装甲がシェルの乗る軽量級に比べて格段に厚い。打撃で装甲を確実に削っているのだが、さほどのダメージを与えたという感じもない。 
  反撃が来た。重い一撃がシェルが乗るライノクラフトの盾を破壊する。威力のある一撃は盾の装甲の半分以上を削り取ってしまった。 
  シェルは盾を捨てる。あと1撃も保たない盾を持つより、それよりも重量を少しでも落として回避の為の速度を上げるほうが生存率が高いと判断したのだ。 
  剣と剣が振り下ろされ、盾の装甲が飛び散り、騎体の装甲が削れる。シェルは回避に専念しながら敵のウィークポイントを探ろうとしていた。そして、その結果、一つの光明を見出した。 
  2機のライノクラフトが対峙し、動かない。互いに打ち込むタイミングを見計らっているのだ。 
  モニターの片隅で警告が光る。エネルギー残量がわずかになってきたのだ。各モーターの疲労も激しい。マックススピードで走り回っているのだ。練習機ごときのモーターではシェルの要求する運動性能を発揮できない。彼の操縦センスは同期の訓練生の中でも上位にあり、小さい頃から父の操縦を見、母からライノクラフトの講習まがいのものを受けていた結果が開花していたのだ。 
  
 「次で!」 
  
  シェルが動いた。モーターが悲鳴を上げるのも構わず剣を構えて突進する。敵は回避行動を取らずに盾で防ごうと構える。 
  
 「やっぱり!」 
  
  走るライノクラフトの左足に全重量を掛け、バネの様に横に飛ぶ。左フレームにヒビが入ったという表示がモニターに表示される。 
  
 「いけぇぇぇっ!」 
  
  騎体が敵の眼前で直角に曲がる。そして、右足でもステップ。弾丸のような速さで盾を持たない敵の右側に入り込み、脇腹部分に剣を突きたてる。 
  ギィィン! 
  金属のこすれる嫌な音と共に確かな手応え。シェルの放った1撃は敵の脇を貫通していた。同時にそこには重要な動力ポンプがある場所だ。行動不能とはいかないまでも、かなりのダメージを与えることができる。 
  
 『あー、もうっ! 降参よ、降参!!』 
  
  敵の拡声器から女性の声が響く。同時に敵機が剣と盾を手放して武装解除する。 
  
 「勝っ……た……?」 
  
  現状を把握できていないシェル。見ると、白いほうの騎体は剣を抜くどころかライノクラフトに拍手の真似事までさせていた。 
  
 『合格だ。仲間を見捨てずに戦うその心意気、気に入ったぜ』 
  
  白い騎体からは若い男性の声が響く。 
  
 『シェル、いいライダーになったね』 
  
  朱の騎体からの声にシェルは首を傾げた。自分の名前は試験受験者予定表の中に記入されており、相手に事前に伝わっているのだが、この言い方だとシェルの事を知っている人間のようだが…… 
  
 『ほらほら、早く脱出しろ!次が待ってるんだからな』 
  
  男性の声に圧されてシェルは慌てて目標の少女を右手に、エルマーの騎体を左手に引きずって脱出を果たした。脱出と同時にエネルギーが尽きたのは幸いと言えた。 
  
 『シェル!やったじゃないか!すごいぜ!』 
  
  
  エルマーの興奮しきった声が伝わってくる。ここに来てやっとシェルにも実感が湧いてくる。 
 「そっか。勝ったんだ。勝ったんだ!!」 
  
  コックピットの中で大きくガッツポーズをして喜びを表現する。 
  
 『よーし。交代だ。整備の為に1時間程休憩する。候補生はムーバ内にて食事と休憩を摂れ。試験の終わったシェルとエルマーは教官室に来い』 
  
  無線が回復し、教官の声が響く。シェルは「了解しました」と返事をしてから目標の少女を地面に下ろした。自分もコックピットから出て少女に手を振る。 
  
 「ありがとう!シェル、おっきくなったね!」 
  
  少女は長い髪の毛を掻き揚げながらそう叫ぶと、洞穴の方に走っていった。 
  
 「?」 
  
 『おいシェル、知り合いなのか?』 
  
 「わかんない……よく顔とか見てなかったし」 
  
 『さっき戦ったライノクラフトも知り合いだったみたいだな』 
  
 「うん、そうみたいんだけど……」 
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