17: ◆JbHnh76luM[saga]
2012/02/03(金) 10:32:17.02 ID:ui263o5To
部屋に残されたのはシェルに双子、そしてバドルーンの4人だった。
「シェル! 合格おめでとう!」
沙夜香が真っ先にシェルを抱きしめる。続いて魔夜香もシェルを抱きしめてなんども「偉い!」とシェルの頭を撫でながら褒める。
ここにきてやっと実感のようなものがシェルの奥底からわきあがってくる。
「僕……ライダーになれたんだ?」
うんうん、と双子が応える。
「まだ修行は必要だけどな」
バドルーンが笑顔で釘をさしながら、シェルの柔らかい髪の毛をくしゃくしゃっと撫でて、
「まぁ、合格おめでとうだ」
瞬間的に父親の姿が脳裏にフラッシュバックする。訓練学校に入って学んだ事だが、シェルの父親、ガジェル=ブルーエッジというライダーは教科書に載る程すごいライダーだったということだった。いくつもの戦争に傭兵としてナイティムを率いて参加し、ことごとく大手柄を立てたというのだった。だが、彼の有名たる所以というのが戦争回避のための動きというものだった。無駄な戦争はするべきではないと提唱し、極力戦闘が行われないように動く『戦争を回避する最前線』という異名までもつけられていたのだった。
「僕、おとうちゃんに一歩近づけたんだよね?」
不安げな瞳が双子を交互に見る。沙夜香がシェルを優しく抱きしめながら「そうよ、シェルはお父様にまた一歩近づいたのよ」と答えると、うん、うん、とシェルはうなずきながらいつの間にか涙を流していた。正式にライダーになったとはいえ、シェルはまだ14歳の少年なのだ。
「それでね、シェル。貴方にここに残って貰ったには理由があるの」
ひとしきりうれし涙を流したあと、落ち着きを取り戻したシェルの涙をハンカチで拭いてやりながら魔夜香が口を開いた。
「うん」
泣き止んだシェルが顔を上げる。ちなみに沙夜香はずっとシェルを背後から守るように抱きしめている。
「沙夜香、そろそろ離れなさいよ。話づらいからさぁ」
「えー、いいじゃない。久しぶりなんだし」
ぎゅっとシェルを抱きしめる沙夜香。それに黙っている魔夜香ではない。
「あのねぇ、私だってシェルに会うの久しぶりなんだから可愛がってあげたいけど、今はそういう話じゃないでしょ」
むー、と沙夜香は不満をもちつつもシェルから離れる。と、その瞬間悲鳴が上がった。
「はっはっは、全く沙夜香はシャイだなぁ。抱きしめたいということは抱きしめてほしいということだろう? その役割は……その役割は!! もちろんこのバドルーン様に決まっている!!」
バドルーンが沙夜香を背後から抱きしめていた。さっきまで椅子に座っていたはずなのに女性が絡むと人とは思えない常軌を逸した能力を発揮する男だ。
「この……馬鹿男―っ!!」
鳥肌を立てながら魔夜香がバドルーンを殴り飛ばす。感覚の共有で魔夜香にも沙夜香が感じた感触、バドルーンに抱きつかれた感触を味わったのだ。
「ふっふっふ。何だいマイ・ハニー魔夜香。お前も俺様に抱きしめてほしかったんだね? 焼きもちなんて可愛いところあるじゃないか。さぁ、この胸に飛び込んでおいで!」
魔夜香が飛び込む代わりに机がバドルーンの胸に飛び込んできた。顔面に炸裂する事務テーブル。投げたのはもちろん魔夜香以外にありえない。振り返ると、魔夜香が机を投げたままのポーズで肩で息をしていた。
「ったく、この根底馬鹿! とりあえず死んどけ!」
ようやくバドルーンが撃沈した所で魔夜香が話を元に戻した。
「で、シェルにここに残ってもらったのは理由があるの」
「理由?」
沙夜香に渡されたジュースのパックを受け取りながら問い返す。
「今、貴方のお友達が何をしているか知ってる?」
その問いに首を横に振って答える。教官からライダーとしての心得でも言われてるのだろうと思っていたのだが。
「今、各国の軍部のスカウトが来ててね、今はその人達の為の時間なのよ」
それが意味するところは言うまでもなく逆リクルート活動と言えるのだろうか。ライダーという職業は引く手数多というのは事実だ。優秀なライダーを抱えることができるということは、つまるところ戦争での優勢を獲ることが出来るということに他ならない。
中立の街、バラン・バランを囲むようにして覇権を争う6カ国は競って優秀なライダーを獲得しようと、毎年この季節に行われるライダー試験の際にはその各国のスカウトがライダーとして合格したばかりの若者を獲得するために試験に同行しているのだ。
「っていうことは僕はスカウトされる程の成績じゃなかったってことなの?」
残された理由として思いつくのはそれしかない。確かに試験ははっきり言って失格と言われてもおかしくなかった。途中で目標である沙夜香を降ろし、戦闘行為を行ってしまった事はライダーとしての素養を疑われても仕方の無い事であった。
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