過去ログ - ほむら「この話に最初からハッピーエンドなんて、ない」
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38:以下、VIPPERに代わりましてGUNMARがお送りします[saga]
2012/02/29(水) 21:00:37.50 ID:fRW4icTG0
『――嘘吐き』

裏切られた。
お父様に裏切られた。
信じていたものに、足許の土壌を掘り返され、掬われて、根こそぎ奪われる。
余りの衝撃に耐えきれず、織莉子は尻餅をついて倒れ込む。

数日後、傷心の織莉子は学園へ来ていた。
それは、規則正しい健全な生活を送ろう、或いは父の教えを守り、模範生として他の生徒を導こうという義務感の表れではない。

お父様はもう居ない。辛かった。とても悲しかった。ここ数日で、何回泣いたか分からない。
でも。私が落ち込んでいたら、誰か慰めて、励ましてくれるかも知れない。
私達のことを快く思わない人も中には居るけれど、皆大切な学友ですもの。

少女の切なる願いを、甘い、と一笑に付すことなど出来はしない。
情や温もりを求める相手も選べないほどに、織莉子は追い詰められていた。
織莉子は、深い絶望の中に在って、そこから抜け出そうと、救いを求めていたのだ。

『よく学校に来れますわね。図太い人ね、我が校の質が落ちてしまうわ』

『盗人猛々しいってこのことを言うのね』

……そんな淡い期待は、全て原形も留めないほどに打ち砕かれてしまう。
失意の底に居る織莉子を待ち受けていたのは、周囲の人間の心無い仕打ちだった。

たった数日で、ここまで一変するものなのか。
嘗て織莉子に親しげに接し、語り掛け、褒めそやしていた学友達が。
憧憬に羨望、多少の嫉妬が混じった眼差しを向け、黄色い声を上げていた生徒達が。
まるで申し合わせでもした様に、皆一様に掌を返したのだ。

織莉子に、面と向かって話し掛けてくる者も、もう居ない。
彼女等は遠巻きに織莉子を眺め、ひそひそ声で小馬鹿にしてくるだけだ。
屈辱と哀切とが入り交じった不純物だらけの涙が、織莉子の机をぱたぱたと濡らした。

裏切られた。
友達に、……友達だと思っていた人達に裏切られた。

『先生はお会いにならないと言っています。あなた、ご自分の立場を解っておられないんですか?』

『選挙も近いというのに、不正議員の娘なんかに纏わりつかれたら堪らないでしょう?』

生徒が駄目なら、理解のありそうな大人達へ。
その希望さえも、打ち捨てられる。
立場や風評、沽券といった物を気に掛ける教職員は、織莉子に対しては生徒以上に冷たく、顔すら見せようとはしなかった。

裏切られた。
信頼していた先生達に裏切られた。

教室、校庭、屋上、職員室、体育館。
その他学園内のあらゆる箇所を、織莉子は藁をも掴む気持ちで彷徨う。
そして、理解する。
この学園の敷地内の何処を探したって、私の居場所はもう無い。
誰よりも目的意識を持ち、熱心に通い続けた学び舎に、己の得た物など何一つ無かったのだという事実が、織莉子の心を深く抉った。

全方位から浴びせられる、情け容赦のない嘲笑や侮蔑を多分に含む、粘着質で何処までも冷たい視線。
織莉子の耳に届く様、故意に聴かせているとしか思えない罵詈讒謗に、言い返すことも出来ず、ただじっと耐えるだけ。
希望を求めて来た筈の織莉子の心は、今再び絶望に塗り込められる。

この学園に来ることは、二度とないだろう。
嘗て織莉子自身の前途を祝福するかの如き輝きに満ちた、今では何の貴さも見出せぬ色褪せた校舎を背に、織莉子は確信していた。


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