過去ログ - アンリ士郎「汝の欲す所を安価にて為せ!(キリッ」一同「へー」
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634:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/03/10(土) 22:00:57.10 ID:yheQES6i0
 正面にまわり、石段を上がったところで言われた。
 靴下を通して触れた木の床は、しかし冷たくはなかった。
 ぶ厚い杉の板は、空気の温もりを吸い込んでいるかのように、ほんのりと暖かい。
 二重の障子の内側にはいると、寒気が遠のく。部屋は三方が障子で、広さは二十畳か三十畳くらいはあるだろう。
 正面に金色のすだれがかかっていた。
 障子とすだれの上方にある壁と天井は、すべて仏像の絵で埋めつくされている。
 曼陀羅を描いたものだろうか。一枚の絵ではなく、部屋いっぱいにそれがあることからすれば、この空間そのものが曼陀羅ともいえた。
 僧はすだれの手前に正座した。私も膝を折り、坐った。


「ここは何をするところなのですか」


 二人の間にテーブルも小机もないので、奇妙な気がした。


「このすだれの奥で、お経をあげます」


 僧はじっと私をみつめる。静かな視線と、どっしりと坐って動かない身体は、そのまま仏像のように見えた。


「一日、ここで読経をしていると、自分というものがなくなってきます」


 僧は微笑する。


「この身体は確かにここに坐っているのですが、それも生きているのではなく、そ
 この燭台、そこのすだれ、そこの柱と同じものになってしまうのです。生も死もない──」


「生も死もない」


 私は思わず復唱していた。


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