過去ログ - さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜
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940: ◆ySV3bQLdI.[ saga]
2013/01/12(土) 03:59:22.48 ID:4pqoiOsuo

 その少年が今、目の前にいる。ヴァイオリンを大切そうに抱えて。
 練習の疲労を漂わせながらも溌剌としているのは、今が充実しているから。
今日の反省点はどこで、明日は何の曲に挑もうか、そんなことばかり考えている。
頭の中は旋律に満ちているに違いない。

 きっとこれから先、まだ見ぬ音楽と出会い、技術を磨いて、更なる高みへ昇っていく。
自分にも、死んだ男にも、絶対たどり着けない場所へ。
 込み上げる怒涛の如き嫉妬と怒り。少年が眩しければ眩しいほど、心の陰は濃さを増す。
思い知らせてやる。綺麗な光には、自分のような害虫も寄ってくるのだと。

 話したこともない少年に理不尽な憎しみを抱き、すべてを奪いたくなる。
 普通ならあり得ない、常軌を逸した妄想。けれど、今の彼女は普通ではなかった。
 女はくるりと踵を返し、気取られぬよう離れて彼の後を追う。  

 天候は折悪しく雨。多少の音は掻き消してくれる。
 少年は、小さな折り畳み傘を片手に、ヴァイオリンが濡れないように歩くので精一杯。
前もろくに見えていない上に、イヤホンで音楽を聴いていた。
 これでは、とても背後にまで注意を払えないだろう。

 少年は近道をしたかったのか、
歩道のない――白線の内に辛うじて一人の幅があるが――車道を行く。
 夜に通るのは危険な道だが、車通りが少ないからと警戒心を緩めているのだろう。

 女は360度をさっと、それでいてくまなく見渡す。周囲に人の気配はなかった。
 街灯は頼りなく瞬き、横を通り過ぎる車もまばら。
 聞こえるのは雨音と、水を跳ねて走るタイヤの音だけ。
 街が、世界が呼吸を止めているかのよう。




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