18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/05/05(土) 12:25:40.49 ID:r7NxxgN10
「お、来た来た!遅いよ、黄色いの!」
下駄箱で待っていたのは、例の黒くて小さい、あの無礼な子――たしか名前は呉キリカといったか――だった。ニカッと笑う口から覗く鋭い八重歯とその童顔から、彼女がいったい何歳なのか見当がつかない。
八重歯。
いやがおうにも「あの子」を連想させる、かつて正義であろうとした、けれど心折れ堕ちた彼女の事を。髪の色も、目鼻立ちも体格だって違うはずなのに、おかしな話だと、巴マミは思った。
「美国さんは?」
そう、昇降口で待っていてほしいと言ってきた彼女本人の姿が、どこにも見当たらないのだ。あれだけ人目を惹く容貌をしているのだから、近くにいればすぐにでも分かりそうなものなのに。
「まあ、そこはほら。色々な事情があるんだよ、こちらにも。悪いんだけれど、織莉子が待ってる所まで、付いて来てくれないかい?」
「それは良いのだけれど……」
どうして、と口に出そうとして、呉キリカが制止する。
「キミも見ただろう、あの、ひどい有り様を。ひどい話だよね、織莉子はなんにも悪い事なんかしてないっていうのに。もちろん、私はそんなの知ったこっちゃないし、むしろそれで織莉子の悲しみを共有できるのなら、喜んで共に在ることだろう。……だけど織莉子は優しいから、私やキミに塁が及ぶことを恐れているんだ。あの悪意の矛先の、本来向けられるべきでない人にそれが及ぶのを」
「彼女に何があったというの。何故美国さんは、あんな――あんなひどい」
「知らない、というなら知らないままでいてくれないか。キミがその、悪意の視線を彼女に向けないという保証なんか、どこにだってありはしないんだから」
「……そんな事には、ならないわ」
マミは当然のように反論する。彼女が何であれ、謂れのない罪で忌避されているのいうのなら、自分がそこに加担する理由などない。だがキリカは、諦念の染みた笑みを浮かべてそれを否定する。
「"絶対"なんてものはなかなかないんだよ、黄色いの。そう、私の、織莉子に対する愛以外には」
そう、と言って、キリカは続ける。
「あれは、こんな風にあったかな昼下がりの事だよ。織莉子は私のためにわざわざケーキを焼いてくれたんだけど――」
これを皮切りとして、呉キリカは「自分がどれだけ織莉子を愛しているか」という事の証明を始めた。要するにそれは、グラニュー糖の塊に砂糖をまぶしたようなものではあったのだが。
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