5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)
2012/04/24(火) 16:56:24.29 ID:D+xZ8dty0
巴マミは、魔法少女だ。
人に害を為す「魔女」と呼ばれる怪物を倒し、人々に希望を振り撒く夢のような存在、それが魔法少女だった。
だが現実の魔法少女と言うものは、そんな夢に満ちたものでもなければ言葉の響きのように甘美な存在でもなかった。
魔法少女は魔翌力を行使すると、魔翌力の源たる「ソウルジェム」を曇らせる。そしてそれが曇り切った時、彼女らは魔法が使えなくなってしまう。そんなジェムの魔翌力を補充するのが「グリーフ・シード<絶望の種>」だ。グリーフ・シードは魔女が倒れた際に時折いくつか落とす事がある「魔女の卵」で、本来ならば即刻廃棄するべき危険物と言うべき代物だが、それはソウルジェムに蓄積された曇り――穢れを吸い取って、再び魔翌力の行使を可能とする「回復アイテム」としての側面もあった。
だがこのグリーフ・シードこそが、マミの頭を悩ませる「種」だった。
魔法少女はグリーフ・シードを用いなければ、継続して魔法を使用することができない。だがグリーフ・シードは魔女を倒しても確実に手に入る代物ではないため、これを巡っての争いが、しばしば起こるのだ。誰もがマミのように正義を標榜して魔女退治に勤しむ者ばかりではない。中には強大な魔翌力の行使そのものを目的とする者や、ろくでもない反社会的行動をするために魔法少女となる者も、確実にいる。そういった者たちはより潤沢な魔翌力を求め、つまりはより多くのグリーフシードを求めて、幾度となく戦いを繰り広げた。それは縄張り争いであったり、現物のグリーフ・シードの奪い合いであったりと様々だが、争いである事に変わりはない。
それがただの小競り合いなら良いのだが、実際には多くが「殺し合い」と言うべきものにまで発展し、近隣のルーキーたちの諍いを仲介したことも一度や二度ではない。彼女らの多くは魔法少女であることに飽きたのかしばらくするといなくなってしまうのだが。そういったグリーフ・シードを巡る争いは、いつだってマミの身近に在る事だった。まさしく、グリーフ・シードとは争いの種そのものだったのだ。
だから巴マミは警戒したのだ。もし、この転入生が魔法少女だったら。そして、邪な欲望を実現するためにグリーフ・シードを求める者であったならば。マミは、彼女と対決する事になるのかもしれないのだから。
今の所、美国織莉子が魔法少女であるかどうかは不明だ。だが警戒を怠らないに越したことはないだろう。
向けられる視線が侮蔑から嫉妬へと変化していくのを感じ取りながら、マミは美国織莉子が尻尾を出すのを待った。その懸念が杞憂に終わる事を望みつつ。
授業の合間の休憩時間。実際には教室移動をしたり出された課題の確認をしたりと碌に休憩を取れないのが中学生の常なのだが、それにしたって普通、新たに現れた転入生のために時間を取るのが、正しいクラスメイトの在り方だろう。もちろんそれは転入生のためなどではなく、専ら自身の好奇心を満たすための野次馬根性であり、大概転入生は質問攻めに遭うものと相場が決まっているのだが、こと彼女に限ってはその心配はなかった。と言うのも、彼女の周りには誰も集まらなかったからだ。
美国織莉子はあからさまに避けられていた。それがさも当然の事であるかのように。それどころか、彼女に向けられる悪意の視線はさらに強くなる一方で、その度に彼女を中心として存在する不可侵の結界は半径を拡げていった。
ちょうどいつもの女子グループに混じって弁当を広げようとしていた矢先の事だった。
「巴さん。ちょっと、良いかしら?」
そら、来た。雑な言い方をすれば、巴マミの心情というのはこんなところだった。
「ええ、何かしら?」
「まだ、私はこの学校の造りを把握していなくって。良ければ、案内してほしい所があるのだけれど……」
「なぜ、私を?」
「貴女が学級委員だと聞いて」
非の打ち処のない問答。だが、どうして彼女はマミが学級委員の一人だという事を知っているのだろうか。彼女はこの教室にやって来てから一度も、誰とも口を利いていないというのに。
「ええ、そう。分かったわ。……そういう事で、みんな。今日の所は――」
「え、ええ……巴さんも"大変"ね……」
その「大変」というのがどういった事を指し示すのか、巴マミは知らない。
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