過去ログ - 織莉子「私の世界を守るために」
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88: ◆qaCCdKXLNw[saga]
2012/07/17(火) 04:08:41.93 ID:yIkrPX16o
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 キリカはこれまで、基本的に新米魔法少女のみをターゲットに狩りを行ってきた。
より効率的に魔法少女狩りを行うために、予め魔女結界にキリカの固有魔法――時間遅延魔法を巡らせ、次いで魔法少女とソウルジェムの関係を明かす。
魔法少女になったばかりで希望に胸満ち溢れている彼女らは、その事実に精神的に強いゆさぶりを受け、本来の戦闘能力の半分も発揮できず一方的に狩られる運びとなるのだ。

 その日キリカは、この辺りのドンとして(本人にその自覚があったかどうかは置いておいて)君臨する巴マミと接触していた。
これは全く想定外の出来事だった。
織莉子からも彼女とだけは戦うなと何度も言い含められていただけに、織莉子から貰った大事なぬいぐるみを拾ってもらった恩を返した後には、キリカとしてもつつがなく別れるつもりでいたのだ。

 ところが、調子に乗ったキリカが愛について講釈を垂れている最中に、魔女の襲撃がなされてしまった。
それもあろうことか、キリカだけをピンポイントで襲撃したのだ。

 仕方なくキリカは変身し魔女を始末するものの、既に魔法少女狩りの下手人は「黒い魔法少女」であることとして近隣に周知されてしまっている。
正体がばれたキリカは、巴マミと戦うしかなかった。

 キリカは善戦した。
魔女結界に自身の結界を重ね、全体に時間遅延魔法をかけた。
そして狩人さながらの動きで巴マミに手傷を負わせ、あと少しという所まで追い詰めた。

 だが、結局マミは機転を利かせてその窮地を脱し、逆にキリカを追い詰めることとなる。

 織莉子はそれを何とか知覚した。未来予知ではなく、彼女の広域化された知覚能力で以て。
固有魔法として未来予知を保有していると言えども、常に効果をオンにしておくわけにはいかない。そんなことをしていては、魔力がいくらあったって足りはしない。
普段はオフにしておき、随意に発動するよう織莉子は能力を設定していたのだ。

 今回は、それが仇になった。

 背中のソウルジェムに罅を入れられ脚を撃ち抜かれ、今にも処分されそうになった所をすんでの所で救出した時には、既にキリカの死は確定していた。

 背中の傷自体はそれほどではなかったためにすぐに治癒できたものの、脚の傷は大たい骨を粉砕・貫通し大穴を空けていて、脚がくっついているのが不思議なほどの重傷だった。
どこか致命的な血管が破壊されているのか血は止まらず、どれほど強く包帯を巻いても然したる効果はなかった。

 傷ついたジェムは、内部構造に異常をきたしたのかまともに動作せず、どれほどグリーフ・シードを用いてもすぐさま濁りを溜めこんでいく。
もうキリカは長くなかった。あと二日保てば良い方だろう、そんな有様だった。

 織莉子は後悔した。自分の、幸福を貪りたいとする怠惰が、この事態を招いたのだ。
もっと早く自分が覚悟を決めていれば――鹿目まどかの殺害を決意していれば、こんなことにはならなかったのに。

 そうだ、分かっていたはずだ。鹿目まどかを魔女にしないためには、その命を奪うしかないことくらい。
いかなる道程を通過しようと、鹿目まどかは必ず魔法少女になり、そして魔女になる。まるでそれが、予め世界の理として決められてでもいるかのように。

 たとえその先に在るのが地獄であろうと、自分は覚悟を決めるべきだったのだ。
何を悩む必要があったというのだろう、この両手はもう既に、拭いきれないほどの血で汚れきってしまっているというのに。

 これは咎なのだろうか、幾多の魔法少女たちを絶望させたくせに、至福を味わおうとしていた自分に対する。
そうだ、きっと。そうなのだ。


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