89: ◆qaCCdKXLNw[saga]
2012/07/17(火) 04:09:12.07 ID:yIkrPX16o
織莉子はベッドに横たわるキリカを見遣った。
その身体は小さかった。
その手脚は細かった。
この自分よりも小さな肢体の少女は、これまで必死になって自分を支えてきてくれた。
時に織莉子を優しさで包み、時に振り回し、最後には汚れ仕事を買ってでてくれるまでに。
そしてその結果こんな深手を負って、その命は今にも尽きようとしている。
彼女はかつて自身でそう言ったように、織莉子に尽くし続けてきたのだ。
比して、自分はいったいなんなのだろう。
これほどまでに尽くしてくれた彼女に、自分はいったいどれだけをしてやれていたのだろう。
自分は何も返せていない。
自分を絶望の縁から引っ張り上げてくれた彼女に、何もしてやれていない。
自分のせいでこんな傷を負わせてしまったというのに、何も、何もしてやれていないではないか。
私のせいなのに――。
織莉子は医者を呼ぼうとした。それがどれほど無意味な行為であるのかくらい、織莉子には分かっていた。
けれどそうするしかなかった。
「――織莉子」
いつの間にかキリカは目を覚ましていた。
医者を呼ぼうと受話器を持ち上げる織莉子に、語りかける。
「医者は要らない。これを診せてもどうにもならないよ」
何を言っているの、と織莉子は言った。
それが自分に出来る、僅かなことなのに。
「このままじゃ貴女は……」
「いいんだ」
「よくないわ!」
そう、良いわけがない。
キリカが居ない世界など、織莉子にはもう考えられないことだった。
たとえどれほどのことがあろうと、キリカの居ない世界など、もはや意味が無い。
そんな織莉子を制して、キリカは言う。
「――私の告白を聞いてほしい」
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