5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/05/11(金) 21:20:03.74 ID:gd3Ez0Xw0
「おーい、そこの君〜! こんなところで寝てたら危ないよー! 凍えて死ぬか、襲われて死んじゃうよー!」
「…………?」
はきはきと元気に満ちた女性の声が聞こえてきた。僕は覚醒しきっていない頭でそれを認識し、恐る恐ると言った様子で目を開けてみた。そこには目鼻立ちが整ったmある種の勝気な表情さえ感じ取れる少女の姿があった。その少女は見る者を勇気づけるような笑顔を浮かべて、僕に手を伸ばしていた。
「いやいや、君だよ君。アルカパみたいな顔した君だよ?」
「……僕……ですか?」
僕はアルカパみたいな顔なのだろうか。いや、もちろんそういった客観的表現というものは、見た人それぞれの感じ方があると言うことはもちろん理解しているのだけれど、アルカカと言われたのは初めてな気がする。いや、そもそも……何か僕の記憶に違和感があるような、しかしそれについて考えようとしたところで、女の子が質問を次々と投げかけてきた。
「うん。君さ、なんでこんな廃墟で眠ってるの? もしかして自殺志願者? そういうのって止めといた方が良いよ? 世界を呪うより、祝福し続けた方が、幸せでしょ? なんてこんなこと言ったら厭世感を強めるだけかもしれないけど」
「……?」コクッ?
彼女が早口で捲し立てが故に、僕の思考はついていけず、小鳥のように首を傾げることになってしまった。
彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべた後に、謝罪の言葉を僕に投げかけてくる。
「あー……ごめんね。勝手にべらべら喋って、ほら、とりあえず近くの街まで連れて行ってあげるよ。君、名前は?」
そう問われたときに、しかし僕は全く自分の名前というものが思い出せないことに気が付いた。いや、名前だけでなく、自分のアイデンティティに関わるほとんどの事柄を何故か思い浮かべることが出来なかった。思い浮かばないと言うよりは、欠落していて、手を伸ばしたのだけけれど目的の物が見つからずに手が空を切ったという表現が正しいのかもしれないけれど。
「名前……?」
「うん、名前だよ? 皆に平等に、不公平に、理不尽に与えられている名前だよ。もちろん君にだって、それくらいあるでしょう? 人間なんだから」
しかし、僕はその平等に、不公平に、理不尽に与えられているはずのものを思い出せない。
――僕の名前。
僕の名前は、果たしてあったのだろうか。あるとしたならば、僕の名前というものは何だったであろうか。
僕は僕自身を証明するものを何も持っていなかったのである。
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