5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[saga]
2012/05/23(水) 23:13:03.74 ID:ekos52i6o
僕の熱を測り終えた妹は、僕の額に当てた手をそのままにしていた。そして不意に小さな身体を僕の方に屈めた。今度は妹の唇は前より少しだけ長い間僕の口の上に留まっていた。
妹が顔を離して再びベッドの側に寄せたカウチに座りなおした。いつも冷静な表情が少し紅潮しているようだった。
「・・・・・・何で?」
僕は混乱してうめくように囁いた。「何で君はこんなことを」
「何でって・・・・・・。風邪はうつらないみたいだし。先輩、そんなに嫌だった?」
「嫌なわけないけど、何で君が僕なんかにこんなことを」
「先輩、あたしのこと気になるって言ってなかったっけ?」
確かに僕は妹にそう言った。恋の告白と同じレベルの恥かしい言葉を僕は前に妹に向かって口にしたのだった。
「・・・・・・でも、君と僕なんかじゃ釣り合わないし、それに君は誰とも付き合う気はないって」
「何で先輩とあたしが釣り合わないの?」
まだ紅潮した表情のままで妹が返事をした。「あたしじゃ先輩の彼女として不足だってこと?」
何を見当違いのことを言っているのだろうか。わざとか? わざと僕のことをからかい牽制しているのだろうか。それともこれは、女に対する作戦に僕が怖気づくことのないようにするための言わば餌なのだろうか。
「彼女って・・・・・・。僕は最初に君に振られたんだと思って」
「そうか。そうだよね」
妹はもう顔を赤らめていなかった。むしろ今まで見たことのないほどすごく優しい表情で僕を見つめていた。
「何であたしに振られたと思ったのに、こんなにあたしのためにいろいろとしてくれてるの?」
僕はどきっとしてあらためて彼女を見た。これは惚れた欲目だ。僕の心の中で警戒信号が鳴り響いた。
・・・・・・妹のような子が僕を本気で好きなるはずがない。これは言わば馬車馬の目の前にぶらさげる人参のようなものだ。あるいはひょっとしたら妹は僕に相談しているうちに、陽性転移を発症したのかもしれなかった。そうであればそれは当初の僕の目的のとおりだった。でもこれまで妹とべったりと時間を過ごしてきて、妹のために無償で、自分を滅ぼしかねない行為を行うことに決めた僕は、今では陽性転移的な妹の感情なんて欲しくなかったのだ。
それとも彼女は陽性転移的な感情ではなく本心から僕のことを好きになったのだろうか。それはいくら言葉を重ねても答えの出ない類いの疑問だった。僕よりももっとリア充のカップルにも等しく訪れることはあるだろう男女間の根源的な問題だったのかもしれない。
「何でって・・・・・・」
僕は再び口ごもった。
766Res/849.25 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。