17:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:26:59.28 ID:n3CjMYIK0
なめした黒革のソファーに深く身体を預け、影法師がブランデーグラスを掌で暖める。異様な風体だ。
黒ずくめの外套を頭から被せて、全身を隠している。
影法師がもう一つのグラスに琥珀色の液体をなみなみと注ぐと、カン・ユーに手渡す。
グラスを黙って受け取ると、カン・ユーがブランデーを胃の臓腑に流し込んだ。
「そんな酒の飲み方をしていると、いつか身体を壊すぞ」
「放っておけ」
「何をそんなに荒れているんだ」
眉間に皺を寄せ、カン・ユーが口惜しそうに吐き捨てる。
「キリコを殺りそこなった。邪魔が入ったせいでな」
「ほう、邪魔が入ったのか」
「ああ、そうだ。左腕に銃をつけた男にな」
影法師がカン・ユーの言葉に反応した。突然、ソファーから身を乗り出すように立ち上がる。
「左腕に銃だと……そうか、奴は生きていたのか……」
影法師がフードを脱いだ。現れたのは黄金で作られた精巧なマネキンの顔だ。影法師は人間ではなかった。サイボーグだった。
クリスタルボーイの神経回路から呼び起こされる記憶の数々──感情の起伏を表さぬはずのクリスタルボーイのマスクが、
カン・ユーの眼には微かに歪んだように見えた。
電子声帯を震わせ、クリスタルボーイが高笑いをあげた。乾いた笑い声が室内に冷たく響く。
「準備をしろ、サラマンダー。キリコとコブラを仕留めに行くぞ」
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