16:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:24:12.73 ID:n3CjMYIK0
赤い酸の雨が降り注いだあとの街中は、いつも嫌みったらしく空気がじめついている。
クエント人の大男が、雨上がりの路地をノシノシと歩いていた。
「ル・シャッコ、あんたの古い知り合いってのは、ここら辺の近くにいるのか」
「そうだ」
シャッコが、隣にいる男の問いかけに簡潔に答えた。クエント人は総じて寡黙である。
「伝説の男、キリコか……」
立ち止まった男にシャッコが急かす。
「急ぐぞ、メロウリンク」
ふたりはキリコとコブラの逗留する宿屋へと向かった。
絶望的な痛みが脳神経を貫いた。
血に染まった衣類、焼け爛れた顔を浮かべ、亡者達の群れがゆっくりと、サラマンダーの目の前を通り過ぎていく。
サラマンダーは震えた。かつて己が殺した民間人達の怨念に。幻覚だ。いつもの幻覚だ。
頭の中ではわかっているつもりだった。だが、慣れる事ができずにいる。混濁する意識。
ポケットからドラッグケースを引っ張り出し、口に放り込んだ錠剤を奥歯でガリガリと噛み砕いた。
消えろっ、俺の前から消えうせろっ、このくそったれた亡者どもめっっ!!
サラマンダーは心の中で罵りながら、ドラッグを嚥下した。
急激に冷えていくサラマンダーの脳細胞──いつのまにか、亡者達が消えていた。
「また、いつもの幻覚にうなされたようだな、カン・ユー」
「俺をその名で呼ぶな。今の俺はサラマンダーだ」
「ふふ、そうだったな」
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