過去ログ - キリコとコブラでむせる
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9:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:16:52.41 ID:n3CjMYIK0
 ミッター橋が強い突風にあおられて、グラグラと揺れるように傾いだ。キリコが橋の中央までいくと、橋下を見おろす。
 打ち寄せる汚水の波が、コンクリートの壁を引っかいている。
 排水溝が垂れ流す廃棄物──ヘドロの川から昇る異臭がキリコの鼻腔を撫でた。

 コブラの左腕は義手だった。義手の中に仕込まれていたのは銃だ。

 帰還した後のキリコは、コブラの左腕については何も尋ねなかった。元来が口数の少ない男だ。
 尋ねる必要などなかったし、誰しも他人に聞かれたくない事情がある。それはキリコ自身が良く知っていた。
 
 血に染まった戦場を生き抜いてきた男達だ。何も語らずとも察する事ができる。
 バイマン──レッドショルダー部隊に所属していたキリコの戦友のひとり。

 バイマンもまた、戦場で右手を失った男だった。
 伊達男の右手にはまった銀色の精巧な義手の輝きを、キリコは今でも覚えている。

 キリコは嗅いだ。コブラの身体に染み付いた硝煙と血の臭気を。
 キリコは見た。死の陰りを纏わせたコブラの後姿を。 
 キリコは感じた。コブラもまた、己と同様に戦いの中でしか生きられぬ男であるという事を。

 ふたりは性格は違えど、似た者同士だった。まるで兄弟のように。

 通行人が投げ捨てたタバコの吸殻が、真っ黒く染まった河面に吸い込まれていった。
 星一つ見えない夜空、排気ガスの黒い人口雲、タール舗装の道路を横切り、キリコは近くにある食堂に入った。

 キリコはウエイターにブラックコーヒーを注文した。ニコチンの匂いが滲む食堂で、キリコは運ばれてきたコーヒーを飲んだ。
 ここは血と暴力が渦巻く戦場の星アルディーン──キリコが飲むアルディーンのコーヒーは苦い。






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