1:猫宮[saga]
2012/07/05(木) 18:24:59.23 ID:ffqtBWew0
『地獄への道は善意で舗装されている』
誰の言葉か知らないけれど、
何処かで聞いた事のあるその言葉を、最近、身に染みて感じてる。
別に世を儚むほど年齢を重ねてるわけじゃないし、
世界全体を残酷な物と捉えて、あるのかどうかも知らない地獄を連想してるわけでもない。
この自分の考えが思春期の漠然とした不安から来てるって事も分かってる。
我ながら可愛げが無い性格をしてるなあ、と思わなくもないけど、
これが生まれついて以来、付き合って来た自分の性格だからどうしようもない。
小さく嘆息。
中学三年生の夏休みが終わって、少し経った秋口の空の雲を私は見上げる。
雲は茜色の空に普段通り浮かんでいて、私の考えなど知った事じゃないって様子に見えた。
雲と私の思考が連動してるわけじゃないんだし、
そんなの当然だったけど、それでも何だかやるせなくなって、私はまた少しだけ溜息を吐いた。
雲を見上げながら、夏休み前に友達に言われた言葉が脳裏に響くのを私は止められない。
あの日以来、期を見計らっては耳鳴りみたいに響くあの言葉。
私に何度も何度も溜息を吐かせてるあの言葉が、また私の脳裏に響いている。
『今年は受験だし、一学期で音楽の練習は中断だね、梓』
あの日、一緒に音楽をやって来た友達は、
少しだけ残念そうな口振りで、苦笑しながらそう言った。
中学生になってからずっと一緒に音楽をやって来たのに、あの子は少しだけ残念そうに笑った。
ずっと一緒に音楽をやってたのに……。
ちょっと背伸びして難しいジャズを選んで練習して、
苦労しながら少しずつ確実な演奏が出来始めた頃だったのに……。
あの子は……、そう言って笑った。
少しだけ、残念そうに……。
あの日以来、私はあの子と疎遠になった。
夏休み、何度か息抜きの遊びに誘われる事もあったけど、
受験勉強で忙しいから、と返して、あの子からの誘いは全部断った。
学校で話し掛けられても、おざなりな返事を返す事しか出来ない。
そんな事しちゃいけないって分かってても、私はそんな反応をする事しか出来なかった。
裏切られた、と感じた。
ずっと一緒に音楽をやっていく仲間だと思ってたのに、
よりにもよってちょっと残念そうな顔しか浮かべてくれなかったあの子が恨めしかった。
私達の関係はその程度の関係だったの? って何度も問い詰めそうになった。
私は今まで通りの私達で居られれば、それだけで嬉しかったのに……。
でも、私だって本当は分かってる。
あの子はそんなに勉強が得意な方じゃない。
私だって勉強せずに受験に臨めるほど優等生なわけじゃない。
同じ高校に進学して、また二人で笑い合うためには、私達の練習は中断するべきだって事は分かってる。
夏休みから受験が終わるまでは我慢と雌伏の時だってあの子は分かってるんだ。
そう。あの子の言う事は全面的に正しいんだ。
こんな事で裏切られたと感じてしまってる私の方こそおかしいんだろう。
そんなの分かってる。
分かってるに決まってるじゃない……。
そんな事が分からないほど、私は子供じゃないんだから……!
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2:猫宮[saga]
2012/07/05(木) 18:25:34.52 ID:ffqtBWew0
「でも……なあ……」
分かってるはずなのに、私は苦々しく呟く事をやめられない。
もしかしたら、何も分かってないのは私の方なのかもしれない、って考えが私の脳裏を過ぎる。
3:猫宮[saga]
2012/07/05(木) 18:26:27.21 ID:ffqtBWew0
夏休みに入って以来、私はギターを弾いてない。
受験勉強のために練習を中断したのに、あの子と距離を置いたのに、
それでもギターを弾くなんて、色んな意味で裏切りに思えて仕方が無かったから。
私達はただ中断してるだけ。
受験が終わればまた音楽を続けられる。
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